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だが僕が刀を抜き取ると、魔王の穴の開いた身体は瞬時に再生した。風穴が見る見るうちに塞がってゆく。
追撃の鎌が迫る。僕は間一髪のところで後転して避けた。
再び魔王と対峙する。どこかに弱点があるはずだ。それを見つけなければ勝利は無い。額に汗が流れるのを感じる。
「ケイスケ!」
近くでユミの叫び声がした。一拍おいて、夜の館の壁が、轟音と共に砕け散る。氷結魔法で壁を弱体化させ、火炎魔法を打ち込む。温度差で館の壁が崩壊したことを、僕は一瞬で理解した。
「んむ、おああ」
真昼の陽光をまともに浴び、魔王が苦悶のうめきを発した。黒い皮膚から、シュウシュウと煙が上がる。
この魔王の弱点は日光だ。僕はそう、直観した。
愛刀を上段に構え、大きく袈裟切りを放つ。
今度はクリティカルヒットした。肉と骨を断つ感覚が、手の中に感じられる。
「ぐふう」
魔王が断末魔の叫びをあげて雲散霧消した。館内に立ち込める嫌な気配が消えてゆく。
魔王が立っていた地点から、ぽろりとアイテムがドロップした。水色の短剣だ。柄にはきれいな幾何学模様が刻まれている。
僕はウィンドウを開き、アイテム名を検索した。
『降水の短剣』
名前だけしか記載されていなかった。
僕は魔法力を短剣に込め、大上段に掲げてみる。しかし、何も起こらなかった。
「きっと、ラインの地に行かなければ、効果は発揮できないのよ」
いつの間にかユミがキスできそうなほど近くによって、短剣をしげしげとながめてから言った。
「そうだね。これで、干ばつを終わらせることができるかもしれない」
僕とユミは、魔道伝書鳩を飛ばして、明日、ラインの地で雨ごいの儀式をとり行うことを告知した。
僕たちは熟練プレイヤー。加えて、いくつもの水場を解放し、利権を独占することなく無料で提供している。この世界ではちょっとした顔で、慕ってくるプレイヤーは多い。
みんなの魔力を一つにすれば、きっと願いはかなうはず。
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