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ラインの地
ラインの地は、地図上で真っすぐ南に行くと一時間ほどで到着する。陽光がさんさんと降りかかる、茫漠たる砂漠地帯だ。
普段は人っ子一人いないマップだが、今日は魔道伝書鳩のおかげで熟練プレーヤー50人が集合していた。アークウィザート、ハイランダー等いずれも上級職だ。銀色に光る甲冑や、色とりどりの宝石が埋め込まれた魔法の杖が、茶色一色の砂に鮮やかさを与える。
「ケン、ナオミ!」
僕は深く知り合った仲間の顔を見て、大声で呼んだ。
「これから降水の儀式をするんだろう? こんな楽しいイベントに参加させてもらえるなんて光栄だよ」
ケンが炎の甲冑をまといながら返事をした。
「私ユミと一緒には魔法円の準備をするね」
アークプリーストのナオミが白いローブをまとい、腕から魔力を放出し、魔力を数倍にも高める円陣の準備をする。
僕たちは円陣の中央に立って、『降水の短剣』を空に向けた。抜けるような青空だ。
「あと5分で完成するよ」
ユミが魔法の粉で円陣を強化しながら明るく笑った。
もうすぐだ。もうすぐで雨が降る。
「ごふっ」
目の前で、ナオミが倒れた。砂が舞う。背中には太い矢が一本、突き刺さっていた。矢の周りから、真っ赤な血がローブを深紅に染めてゆく。
「回復魔法、急げ!」
僕は叫んでいた。この世界での死は現実での死。集まった仲間の一人が円陣を離れ、ナオミの救助と回復に向かう。
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