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「準備完了!」
ユミの声が戦場に響いた。
「何?」
リーダーの気が、一瞬それた。これが最初で最後のチャンスだ。僕は愛刀の柄で、リーダーの額を思い切り殴った。
「うぐっ」
クリティカルヒットだった。リーダーは剣を取り落とし、その場に伏した。これが殺傷モードだったら、殺してしまったかもしれない。僕は背中がぞくりとした。
リーダーを救出しようと包囲が緩む。その瞬間、僕は『降水の短剣』を天に掲げて、祈った。
「雨よ、降れ」
ユミも、戦闘に巻き込まれていない10人ほどの仲間も、空中に腕を伸ばして魔力を注ぐ。
ほどなく黒雲が現れた。この世界では見たことのない威容だ。雷鳴が轟く。紫電が空を割った時、あまりの迫力に敵対集団の攻撃も止んだ。皆、天をあおぐ。
ぽつ、ぽつりと、水滴が頬を濡らす。
水滴は小雨になり、甲冑と、今までに流された血を洗った。土煙が止まる。
雲はどんどん厚くなり、雨脚は滝のように冷たく、激しくなる。
僕は思わず目をつぶった。
刹那、世界が水あめのようにどろりと溶けた。
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