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魔女の予言
「夜の館にカギがある。ラインの地に雨が降るとき、この世界は破滅する」
西の魔女が予言した。
「夜の館にカギがある。ラインの地に雨が降るとき、この世界は解放される」
東の魔女が予言した。
予言の後半部分、どちらの魔女が正しいのか、僕には分からない。
ここ、ビギニングファンタジーの地へ降り立ってからどのくらいの時間が流れたのだろう。
「ケイスケ、この町での情報取集は終わったわ。夜の館に行かなくちゃ」
たった今まで眠りこけていた僕。その隣に座ったユミが、革袋からヤギの乳を飲みながら話しかけた。
ユミはモデルのような8頭身の美少女だ。小顔で、顔のパーツが整っている。肩までかかる豊かな黒髪。大きな目。瞳は強い意志を感じる茶色だ。すらりと伸びた鼻筋、薄いくちびる。
紺色の魔導士のローブ越しにも、豊満なバストと引き締まったヒップが目を引く。
ユミが装備している杖。その先端にある緑の宝玉に、僕が映る。
現実世界ならばアイドルとして活躍できそうな容姿だ。適度に高い身長。細身でありながら筋肉に覆われた身体。髪は短く、長く続いた冒険にも関わらず清潔感にあふれている。
年齢はユミと同い年の17歳。少年のあどけなさが段々と無くなり、青年へと成長する途上の顔つきだ。しかしヒゲは無く、つるりとした卵のような肌理をしている。
今の僕は青いジャケットを装備し、柄に手垢がこびりついたような愛刀を携えている。
だがしかし、僕もユミも『本当の自分』ではない。ゲームの仮想現実が作り出した『理想の姿』である。
僕はここ、ビギニングファンタジーの世界にダイブする前は、ただの引きこもりで、お世辞にもかっこいいとは言えない人間だった。
これからダイブする人間に、この世界の理について説明しておきたい。僕は眠い目をこする。
ビギニングファンタジーの世界に入るには、専用のアプリがダウンロードされたヘルメット型の機械を頭に装着しなければならない。一度ダイブしてしまえば、一定の条件を満たさない限り現実世界への帰還は不可能になる。
何がそんなに困るのかといえば、『一定の条件』が全く分からないことだ。
そして強調してもしきれない点、人生を左右する大切なことは、ゲーム内で死を迎えると、現実世界の肉体も死ぬ。ヘルメットには五感を支配するだけではなく、延髄の呼吸中枢も支配するようにプログラムされている。ゲーム内で死ぬ、ないしは現実世界で無理やりヘルメットを取ろうとすると、延髄に特殊な超音波パルスが送り込まれ、呼吸停止で死に至る。
警告は、ゲームにおける『最初の町』と現実世界のネットに掲示されている。
ゲームに囚われるのは中学生と高校生のみ。外からゲームを強制終了させれば僕たちの脳が停止するという警告も出されている。
だが、ゲームの世界で理想の肉体を得て、息をするのも忘れるような素晴らしい冒険をすることができる。ぱっとしない生き方に悩む学生が、新たな生き方を選ぶという点においては最高の手段だ。
だから、危険性が明確な今でも、新規プレイヤーが参入する事態になっている。
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