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01.百円玉
「あ、百円落ちてる」
大学の帰り道で瑞希が百円玉を見つけた。
「交番に届けたほうがいいよね?」
夕方の色に染まる空気の中で、瑞希は拾い上げた百円玉を直輝に見せる。夕日が百円玉に反射し、百円玉は太陽のような光を一瞬だけ放った。そんな百円玉を見つめた直輝はすかさず瑞希に言った。
「面倒くさいよ、わざわざ交番に百円拾いましたって行くのって」
たしかに交番は来た道を戻って大学を通り過ぎ、さらに大通りを渡ったところにある。正直なところ自分も面倒だと瑞希も思ってしまうのもたしかだ。
「子どもなら正直に届けるだろうけど……」
「こういうときは有効活用するしかない。だから、宝くじを買うしかないね」
得意げな顔の直輝に瑞希は困惑するばかり。
「道端に落としたままにしておくよりずっといい。だって、くじが外れたって宝くじで集めたお金はいいことに使われるからさ」
大学に来てる献血バスには「宝くじ号」と書いてある。つまり、人々が宝くじを買ったおかげで献血のバスが買える。
他にも訪問介護の入浴用の車にも宝くじ号がある。ばあちゃんが介護受けてるけど、その車がそう。だから百円玉を道に落としたままにしておくよりはずっといい。
直輝は瑞希にそんな説明をした。
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