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02.共犯者
二人はさっそく近くのスーパーにある宝くじ売り場へ行く。直輝は百円のスクラッチくじを一枚買い、瑞希に手渡す。君が削ってみなよとうながすように。
瑞希はくじを削りはじめる。どうせハズレだよねとたかを括って。そしてスクラッチくじの銀色の部分の下から出てきた文字は……。
「千円当たった」
瑞希は思わず声を上げる。瑞希にとって生まれて初めての宝くじ。でも、元はと言えば道端で拾った百円玉で買った宝くじ。
「すごいじゃん」と、直輝もびっくりしつつも感心した表情。
「ねえ、なんだか悪いことしたような気分」
瑞希は戸惑うしかない。場違いな服を着て、場違いなステージに立った新米役者のように。そんな瑞希に直輝が言った。
「今さらしょうがない。せっかくスーパーに来てるんだから、千円分、何か美味しいものでも買って食べよう」
直輝のまたまた予想外の提案に、瑞希はますます困惑するばかり。せっかくセリフを覚えてきたのに、それは別の芝居のセリフだったとステージ上で気づいた新米役者の戸惑いのような。
直輝は瑞希の困惑をよそに、売り場で当たりくじを千円に換金する。
「この千円、ずっと持っていてもしょうがないからさ。俺、いっぺんシュークリームを腹いっぱい食べてみたかったんだよね」
コーヒーと紅茶、それに買える限りのシュークリームを手にした二人はの部屋ですぐに満腹になる。
この人、本当にシュークリームが大好きなんだ。
お望み通りにシュークリームで満腹になった直輝はもうこれ以上は何も望まないというくらいの満ち足りた表情。そんな直輝の顔を見て、瑞希もまたこれはこれで正しかったのかなと思ってしまう。
けれども、瑞希はそんな考えをすぐに打ち消すように頭を振った。
「ねえ、たまたま帰り道で百円玉を拾っただけなのに、こんなことに使っていいのかな。そもそも自分たちのお金じゃないしさ」
後ろめたさが消えない瑞希の言葉に、満腹の直輝は首を振る。
「食べちゃったものはしょうがないよ。君だって食べたじゃん」
たしかに瑞希だってもはや共犯者だ。
「そうだけどさ、なんだか間違ったことしてる気がする」
瑞希の言葉に直輝はしばらく何かを考え、そして何かを思いつく。
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