03.胃の中

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03.胃の中

「じゃあさ、最初に百円を拾ったところに代わりの百円玉を落としておけばいい。それで元通りだ。君の気が晴れるならそうしよう」  何が元通りなのか瑞希にはよくわからなかったけれど、二人はふたたび百円玉を拾った場所にまで戻った。  さっきとは違って、太陽が沈みかけた時間帯の薄暗くなった道。道端の自動販売機の輝きがやけにまぶしい。その光は二人のささやかな罪を照らし出す輝きのようにも瑞希には思えた。  二人はなるべく百円玉を意識しないように現場を通りかかる。チャリンという音が響いた。それは直輝が道に百円玉を落とした音。  二人はそのまま、知らないうちに百円玉が転がり落ちた、みたいな感じでその場所を通り過ぎる。あとはただ、このまま歩くだけ。 「あのー、すみませーん」  二人の背後で誰かが二人を呼び止めた。  予想外の出来事に二人は思わず足を止める。地面から死体を掘り返したところを見つかったような気分で、瑞希は後ろを振り返る。そこには見知らぬおばさんが立っていた。 「今、百円落としましたよ」  そのおばさんは百円玉を直輝に差し出す。 「親切にありがとうございます」  世の中には親切な人がいるものだと、瑞希は妙に感心した。それだけに、自分たちの罪滅ぼしが失敗してしまった今、胃の中に蓄積しているさっき食べたばかりのシュークリームの重さが余計に鬱陶しい。
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