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05.舌触り
「お父さんも最初から百円を募金すればよかったのにね」
玲那があきれたような声を出す。
「まあ、そこがお父さんの他の人とは違うところなの」
日曜日の夕方。瑞希と玲那の母娘二人の目の前には、十個ばかりのシュークリーム。
あのとき大学生だった瑞希も、今じゃすっかり大学生の娘を持つ母親。今日は買い物の帰り道で見つけたシュークリームを買ってきたところだった。
それは近所にオープンした新しいケーキ屋でセールしてた一個百円のシュークリーム。
「ま、なんだかんだでお父さんは悪い人じゃないなって思ったの」
「そんなものかなあ」
瑞稀の言葉に娘の玲那は苦笑と戸惑いの混じる表情でシュークリームをさっそく口に運ぶ。シューはカリッとしていて、それでいてクリームは柔らかくとろける舌触り。甘さは控えめだけど、それだけにいくつも食べ進んでしまいそう。
「このシュークリームすごく美味しい」
「お店の作りたてだからね」
瑞希と玲那は、甘いシュークリームに満ち足りたような表情。
「そうだ、お父さんはね、道で拾った百円で買った宝くじで千円と当てたお母さんのことを運がいい奴だなって思ったんだって」
瑞希のそんな言葉に娘の玲那は目を見開く。シュークリームを口にほおばったまま。
「それでお母さんとお父さんは結婚したってわけなの?」
「そりゃまあ、それだけじゃないけどね」
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