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06.大好物
瑞希はシュークリームを手にしたまま、何かを考える表情。
「だから、お母さんが言いたいことはね」
そう切り出した瑞希は、自分の娘をじっと見つめる。どことなく、自分が大学生だった頃と似た顔立ちの娘。
「あなたも彼氏の人間性を見るなら、道端に落ちてた百円玉をどうするか聞いてみるのも面白いかもよって思ったの。道で拾った百円をどうするかで、その人がどんな人間なのか見えてくる」
「私に彼氏がいること、お母さん知ってたんだ?」
「そりゃまあ、なんとなくね」
玲那は戸惑いながらも、さすがお母さんだなと感心するほかない。
「今度、彼氏をうちに連れて来なさいよ」
「えー、別にいいけど、お父さんはなんて言うかな?」
唐突な瑞希の提案に、玲那はシュークリームを手にしたまま、付き合っている恋人の顔を思い浮かべる。あの人なら道で百円玉を拾ったときは……。
「ただいまー」
玄関のドアが開き、直輝の声が響く。
「おいみんな、シュークリーム買ってきたぞ。帰り道にできたケーキ屋でセールしてたんだよ。一個百円に割り引きされてたからさ」
リビングに入ってきた直輝は見つけてしまう。テーブルの上に同じ店の同じシュークリームが並んでいるのを。
「なんだ、お母さんも買ってきてたのか」
「お父さんの大好物だから」
直輝は瑞希に向かって共犯者のような笑顔を浮かべる。
「いいね。腹いっぱいシュークリームが食べられるぞ」
直輝の言葉に瑞希と玲那は顔を見合わせて苦笑するしかない。
(おわり)
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