第4章:私の彼氏はちょっとだけ愛がオモい。

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   一方で、万里は葵依を心配しつつも、少し距離を取ったところで様子を伺っていた。ふと携帯に通知があり、画面を確認すると、一之宮からの電話だった。電話に出ると「SNSを見て」と唐突に言われ、送られてきたリンクをクリックすると、そこには驚愕の内容が映し出されていた。 『A.Sの正体は咲ヶ野三年一組、白石葵依』 『門ヶ原茂からこんなにお金を振り込まれている』 『彼女が愛人として住んでいるマンション』  ──という情報と写真が拡散されていた。そして、晒された葵依の学生証の写真や、母親が残した通帳の写真が大量にシェアされているのを目にし、万里は言葉を失った。  万里はリンク先の画面に目を見張り、信じられない気持ちで固まった。母親が残した通帳の写真までが無断で公開されており、言葉にできない怒りが彼女の心に湧き上がってきた。  電話の向こうで、一之宮の震える声が聞こえた。 「これって本当なの? 白石さんがこんなことするはずないよ!」  万里は怒りと困惑で声を震わせながらも、必死に冷静さを保とうとした。 『私の婚約者が、白石葵依に騙された』 『男なら誰にでも股を開くビッチ』  あれこれと嘘を並べたて、言いたい放題だ。   「どうしてこんな酷いことを……」  呟きながら、拳を固く握り締め、震えを抑えようとしたが込み上げる感情が抑えられなかった。   「こんなのデタラメだよ!」  声に出して叫び、苛立ちを少しでも発散しようとする。  SNSに溢れる悪意の数々、葵依を貶めようとする嘘八百。発言元の「アンネ」というアカウントの持ち主が、葵依の頬を殴った女なのではないかと直感した。 (絶対に許さない……!)  万里は怒りと同時に、葵依を守るために行動しなければという責任感を強く感じた。   「絶対に拡散しないで! 進学したかったらね!」  万里は一之宮に圧をかける。 「進学したかったらってどういう意味?」 「一之宮さんにだけは教える。葵依は愛人じゃない。総理の姪なのよ! こんな嘘八百を面白半分で拡散したことで人生を壊されたくなかったら、絶対に拡散はしないで。友達にも、葵依の叔父さんの話は言わなくていいから、拡散だけは阻止して!」  一之宮は電話越しに一瞬の沈黙を挟んだ後、小さく息を呑む音が聞こえた。 「そ、総理の姪……?」 「詳しい話は、また今度話す!」    驚愕と戸惑いが混じった声に、万里は強い口調で続けた。 「これ以上拡散させないようにして! 友達に聞かれたら、葵依は絶対こんなことはしないって答えてほしい!」  一之宮は気持ちを落ち着かせるように大きく息を吐いた後、力強く応じた。 「分かった! 任せて! 何とか友達に呼びかけて、無駄に拡散しないようにする!」 「ありがとう!」  一之宮が応えてくれたことに少し安堵しつつ、万里は電話を切った時ブレーキ音が耳に入った。万里がその音に反応し、急いで振り返ると、黒いワゴンの助手席のドアが勢い良くスライドし、車内から男が降りてくるのが見えた。万里は反射的に身構えたが、男が葵依と一木を強引に黒いワゴン車の中に押し込んでいた。これはあっという間の出来事で、車のドアは閉まりながら発進した。 「葵依!」    何故、葵依と一木が一緒に居るのかという疑問が湧くよりも、反射的に万里は黒いワゴン車に向かって走り出した。  そして、万里は再び携帯を取り出した。
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