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虹の向こうには
雨が降って、虹が架かって、 その向こうに幸せの虹の国がある。そう言われていたけど、あたしは信じてなかった。おとぎ話ならまだしも、現実にそんなことがあるわけないじゃない。
*
「またねー。 春花一」
「また明日ねー」
あたしは夏樹に手を振った。 進む方向を変えて歩き出す。
上を見上げれば照りつける太陽。 久しく、 雨とは出会っていない。
一ヶ月ほど前から異常気象は続いていた。それは雨が降らないこと。
普通だったら一ヶ月雨が降らないことがあっても不思議じゃないかも知れない。でも、本当はこの時期、すごく雨が降るはずなの。水害が起こるくらい。なのに全然降らないのはおかしい。時々、黒く染まったいかにも雨が降りますよっていう感じの雲は流れるが、実際に雨が降ることはない。
隣をランドセルを背負った女の子が二人通っていく。
「今年はまだ虹見てないね」
「うん。前に雨が降ったときは出なかったもんね」
虹。雨の粒に光が反射して出来るもの。また、月の光でも出来る。赤、橙、黄、緑、青、 藍、 紫色。弧を描いて架かる虹。あたしの国では七色に見えるけど、七色以外の国もあるらしい。
さっきの女の子たちには見えてなかったみたいだけど、あたしには見えてた。目の前に架かる虹。
前に聞いた話では、虹の根元にはお宝が眠っているとか、 虹の向こうに幸せの国があるとか。そんなことは信じてなかったけど、考えてると虹の根元を見てみたいなぁ。ちょうど目の前に虹もあることだし、なんか、急に見たくなっちゃった。
かくして、あたしは虹の根元を目指して歩き出した。
*
しばらく歩いて、そろそろ根元かなって思うところに根元はなくて、気づくと虹が反対側にある──本当はこの辺りで、おかしいなって思わないといけなかった。虹の反対側って行けるはずがないんだもの──。それでまた戻ってみると、虹が反対側に戻ってる。これが何回か続いた。
ここら辺にあるはずなんだけど……。
なんだろう、これ。商店街の入り口みたいなゲートがある。虹の弧の描き方からしても、これより奥に根元があるっぽいし。
あたしはゲートをくぐった。
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