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01. Pause
暇であることの苦痛を実感したのは、無職になってすぐのことだった。働いていた頃はあんなに暇が欲しいと熱望していたのに。
「楔形文字……?」
思わず声に出してしまう。
毎朝、私は新聞を読む。これは社会人になった時からの習慣だ。視野を広く持ちたいし、時事問題にも関心を持たなければならないと思っていたから。
新聞取るの、もう、やめちゃおうかなあ。お金も馬鹿にならないし。
無職になってから何度そうつぶやいただろう。でも、ここで購読を止めてしまうと社会復帰できないような気がして、行動には移せずにいた。
淡い、でも確実な、社会とのつながり。
紙に印刷されているからだろうか。テレビやネットとは違う、何かがある気がして。
社会面を見終わった後、目についた広告があった。
「楔形文字で書かれた世界で二番目に古い法典」というタイトル。どこのラノベかと思ってしまった。
「公開講座かあ」
近所の私立大学で開催されるらしい。事前申し込みや入場資格は特になし。平日の午後だけど、現在無職の私には問題ない。しかも徒歩圏内で無料。行ける条件が揃っていた。
私にとって、どうでもいいもの。
それはひそかな判断基準だった。実生活とはおよそ関係ないという点がよかった。下手に有益だったり、元々の興味関心が高いものだと、現実を思い出してしまうから。
気晴らしに、今まで縁のなかった分野にふれてみるのも、悪くないかもしれない。暇だし。それが足を運んだきっかけだった。
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