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「律ちゃん?」
人から声を掛けられるとは思ってもなかったので、つい、眉をひそめてしまう。平日だから誰にも会わないと、高を括っていた。
「やっぱり律ちゃんだ!」
しぶしぶ声の方を見ると、従姉妹の彩ちゃんだった。そういえば、この大学に通っていると、聞いたような気がする。
「……ひさしぶり」
「今日、お仕事は? お休み?」
「辞めた。今、無職」
「そうなの?」
親戚には両親が告げたかと思っていたのに。普段、従姉妹と連絡なんか取っていないから、私の現状を知っているかどうかなんてわからない。言わなきゃよかったかな。
「うん。暇だったから来た」
「律ちゃん、なんか、ものすごく忙しそうだったもんね。少しゆっくりしたらいいよね!」
彩ちゃんは微笑む。一回りも年下の子に、気を遣わせてしまった。
「今日の公開講座、私のゼミの先生が担当なんだ。優しくて素敵な先生なんだよ!」
「へえ……」
大学の先生なんだから、きちんと教えてくれさえすれば、あとはどうでもいいよ。そんな身も蓋もないことを考えているうちに、チャイムが鳴った。壁の時計を見ると、十四時五十五分。講座の開始時刻だ。
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