01. Pause

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「定刻になりましたので」  登壇した先生が公開講座の開始を告げる。そして、まずお手元の資料が揃っているかご確認ください、資料は三種類あるので足りない場合は近くの腕章をつけたスタッフにお声掛けください、筆記用具がない方も貸し出しますので、と続けた。  今回の講座の資料と、次回の講座の案内チラシと、アンケート。会場で観客が確認している時間を埋めるように、先生はそれぞれの資料の特徴を淡々と告げる。講座の資料は白黒印刷された冊子状のもの、チラシは厚手のカラー印刷一枚、アンケートは白黒両面印刷されたものが一枚、と。さすがにメインの講座の資料がないという人はいないようだけど、「チラシ」「アンケート」とスタッフを呼ぶ声がちらほら聞こえた。  ピラピラした紙はメインの資料にあらかじめ挟んでから配ればいいのに。ばらばらに置くから、こういうことになる。  そんな風に思いつつも、この時間が地味にありがたかった。私は普段なら開始前に配布資料を確認する。でも、今日は従姉妹に邪魔されてしまいできなかった。ペースを崩されると、気になって集中できない。開始までに入場しなかった人も数名いて、ドアの開閉音もしたし。  資料の確認を終えた私は、壇上の「先生」を眺める。  優しくて素敵、ねえ。  先生は想像よりも若かった。楔形文字の研究なんて、ご年配の方がしていそうなのに。おそらく、四十前後?
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