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「マジで?」
ちょっと我慢できない。
暗いのをいいことに佐伯の滑らかな頬に口付けた。
「…まじで…」
少し掠れた佐伯の高めの声が色っぽい。
…キス、したい
頬じゃなくて、その声を発した唇に
まあ…無理、だけど。
駅が近付くにつれて、徐々に街灯が、人が増えてくる。
でも佐伯から手を離すつもりはない。チラチラ見られるのはもう慣れた。
「じゃあ佐伯、日曜は俺とデート、な?」
佐伯の細い肩を抱き寄せて、桃色に染まった耳元で告げると、佐伯が頷いてくれる。
嬉しいのと楽しみなのでドキドキする。
「ね、ね、羽村」
俺のコートを軽く引っ張りながら呼びかけてくる佐伯が可愛い。
「オレ、顔赤くない?平気?」
なんだよ 訊いてくる内容もめちゃくちゃ可愛いな
「ん?んー、ちょっと、かな?でもかわいーから全然平気」
も、全世界に見せびらかしたい
この可愛いのが俺の恋人ですよーって
「そうじゃなくてっっ」
あ
ちょっと怒った かーわい
「ごめんごめん。でもほら、寒いからかな、って思うぐらいだし大丈夫だよ」
嘘じゃない。
でも、そのほんのりピンク色の佐伯の表情が、ただ寒いだけじゃないのを如実に表してしまってるんだけど。
だけどそれを言ったらもっと赤くなっちまうだろうしな。
改札を抜けるために佐伯から手を離して、でもまたすぐに肩を抱いた。少しでも長く、佐伯と触れ合っていたい。
明日は、会えないから
「入れたらさ、見に行きたいけど」
佐伯がそう言ってくれて嬉しかった。
「…来週から、朝会えないね」
残念そうに唇を歪めて言う佐伯を見たら、胸の奥がぎゅっと締め付けられるように感じた。
部活をやってなかったら、朝も会えるし放課後ももっと一緒にいられる。
でもそれはできないし、佐伯も望んでない、と思う。
俺がバスケしてるのを、佐伯はほんとに嬉しそうに見てくれてるから。
バスケもしたいし、佐伯とも過ごしたい。
両方ほしい…のは欲張りすぎなのか?
いつも通りに混んでいる電車に並んで乗り込んでいく時、佐伯が俺のコートを掴んでるのに気付いた。背中側に僅かに引っ張られてる感じがする。
こういうの、やばい
めちゃくちゃ可愛い
混み合った車内、佐伯はもう吊革を持とうともしない。当たり前のように俺を見上げてくるから、俺も当然のような顔をして佐伯に手を伸ばして、細い身体を抱き寄せた。
もう、支えてやってる、なんて言い訳はいらないんだ
佐伯は俺の恋人だから
周りへの言い訳は必要だけど。でもまあ、みんなスマホばっかり見てるし案外平気だったりする。とりあえず文句を言われたりはしない。
あっという間に3駅過ぎて、佐伯をホームに送り出した。
「後で電話するから」
「うん。待ってるね」
後ろ髪を引かれる思いで電車に乗って、窓の外で小さくなっていく佐伯を見つめた。佐伯はその場から全然動かずに俺の方を見ていた。
明日も会いたい
毎日会いたい
在校生なんだからカタいこと言わずに入れてくれればいいのに。
明日はキャットウォークを見上げても、佐伯はいない。
でも日曜はデートだから。
それを心の支えに明日1日頑張ろう。
佐伯と話したいことが色々ある。
電話じゃなくて、休み時間にバタバタとじゃなくて、顔を見てゆっくり話したい。
そう、1コどうしても言いたいこと、っていうか、聞いてほしいことがある。
佐伯を独占したい俺の我儘を、佐伯は聞き入れてくれるだろうか。
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