12 Sion

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12 Sion

 デートに誘われた!!  羽村に!!  駅のホームで羽村の乗った電車を見送って家に帰る道すがら、じわじわと実感が湧いてきた。  どうしよ どうしよ  デートってどうしたらいいの?!  みんなで遊びに行く、とかは分かる。  騙されてダブルデートに組み込まれたこともある。  でも、好きな人と2人っきりでデートしたことは、ない。  うわー!!やばい!!緊張してきた!!  ドキドキする!ドキドキする!!  日曜日が楽しみすぎる!!  その夜の、いつもの22時過ぎ。羽村から電話があった。  日曜日のデートの時間と場所の相談の電話。 『どっか行きたいとこ思いついた?佐伯』 「え…っと、ごめん、全然…」 『はは、いいよ。俺もおんなじだし。じゃ、やっぱモール行こっか』 「うん…。あ、あのね、羽村」  行く場所は、ほんと羽村が一緒ならどこでもよくて、でも。 『ん?なに?佐伯』 「…モールの、開店に間に合うぐらい早く、行きたい」  ちょっとでも長く、羽村と一緒にいたい。 『いいよ?佐伯、朝早いの平気?休みだけど』 「だいじょぶ。目覚まし3つかけるから」 『ははは、そだったな。俺もかける。3つ』  うちの最寄駅のホームで待ち合わせることにして電話を終えた。  ずっと喋っていたかったけど。  でも羽村は明日も朝から部活だから、我慢する。  長い長い土曜日。22時に羽村が電話をくれるまで、することなんて日曜に着て行く服を決めるぐらい。  あとはモールのフロアガイドとかを眺めてぼんやりしながら、でもずっとドキドキしてた。 「なんか詩音(しおん)今日、ていうか最近そわそわしてない?」  って母に言われて「そんなことないよ」って誤魔化した。 「あ、お母さん。オレ明日朝から出かけるから」  中島とかと出かける時と同じ調子で言ったつもりだけど、ちょっと声が上擦った気がする。 「ふーん。気を付けてね」 「うん」  そそくさと母に背を向けて自室へ向かった。 「そうだ詩音。誰と出かけるの?」 「え?!」  後ろから声をかけられてびくっとしてしまった。 「だって詩音、いつもは『中島と出かけるー』とか言うじゃない。でも今日は言わなかったから」 「あ…」  しまった… 「…もしかして、デート?」 「え、え、え、いや、あの…」  母がニヤッと笑ってオレを見た。 「分かった分かった。楽しんできてねー」  笑いながらそう言った母に、これ以上何か言うのも余計変かと思って、そのまま部屋に戻った。  いつか母に羽村を紹介する日が来るのかな。来ないかな。  ちょっと…、全然想像できないや…  
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