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13 S
3つの目覚まし時計を5分ずつずらしてセットして、でも1個目がなる前に目が覚めた。12月の朝はまだ暗い。
母に「ずいぶん早いのね」なんて冷やかされながら準備をして家を出た。
白い息がふわっと宙に舞う。
たぶん、待ち合わせより早く着いちゃうな。
まいっか。ホーム寒いけど。羽村が来るまでの辛抱だし。
そう思いながら改札を抜けて、ホームに続く階段を昇っていると、電車が到着する音が聞こえた。
たぶんこの次のが約束の電車。
1本分早く着いちゃったのか。
降りてくる人とすれ違いながら、オレ浮かれ過ぎーって思った。
でも浮かれるなって言う方が無理。
だって初デートだし。
階段を昇り切って、テスト期間中に羽村と待ち合わせるポイントの方を見たら、
あ!
いた!羽村…っ!
羽村もオレに気付いてこっちに向けて歩いてくる。照れくさそうな笑顔を浮かべて。
「おはよ、佐伯。早く着いたと思ったんだけど…」
「お、おはよ羽村。…オレも早く来ちゃった…」
2人で顔を見合わせて、思わず吹き出した。
大好き
「俺、目覚まし3つかけたのに1コも使わなかった」
「えー、オレもオレもー」
おんなじ嬉しい
「やっぱ気ぃ合うな、俺ら」
「うん」
えへへって笑いかけたら羽村も笑ってくれて、しかもその笑顔がめちゃくちゃ格好よかった。
服も格好いい、羽村。
フード付きの黒いシンプルなコートに、インディゴブルーのスリムなジーンズ。足元はハイカットの黒いバッシュ。黒い靴紐に蛍光っぽい緑色がアクセントに入ってるのが、なんかいい。
でも何よりスタイルがいいからね。
背高くて肩幅広くて脚が長い。
格好いいなぁ、オレの彼氏
電車の混み具合はまあまあで、今回は入口付近に立ててしまった。
もちょっと混んでればよかったのに。
目の前に立ってる羽村を見上げて、黒いコートの端っこを掴んで少し引っ張った。
羽村は「ん?」って顔してオレを見下ろして、そして微笑んだ。
やばい 格好いい
一回電車を乗り換えて、大型のショッピングモールに着いた。
クリスマス前だから、モールの外も中もキラキラしてる。
「どっか見たいとこある?佐伯」
オレの肩に回した腕を少し引き寄せながら羽村が訊いた。
「え、あ、なんかテキトーにぶらぶら?」
「オッケー」
ただ一緒にいるだけなのに嬉しくて、勝手に顔が笑う。
モールの端から順番に覗いていく。開店したばっかでもそれなりにお客さんはいて、女の人はたいてい羽村をちらっと見る。
優越感と、ほんの少しの危機感。
羽村の気持ちを疑ってるわけじゃない
でもなんか狙われてる感がハンパない
思わず羽村のコートをぎゅっと握り直してくっついた。
「どうした?佐伯」
「ううん、なんでもない。あ、ねぇ、ペットショップ、覗いていい?」
「いいよ。佐伯は猫派?犬派?」
「ネコ派!かわいー。でもお父さんがアレルギーだから飼えねんだけど」
「そうなんだ。俺もどっちかと言うと猫かなぁ。犬も好きだけど」
「それぞれ可愛いもんな。わー、こいつやる気ねー。ぶすっとしてめっちゃ可愛い」
もし羽村と住んだらネコ飼いたいな、なんて思ってしまって恥ずかしくて、ネコに夢中なフリをしてケージを覗いた。
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