14 S

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14 S

「…俺ん家の周りにさ、地域猫、あの耳が三角に切ってあるやつ、結構いるんだけど…」 「え、え、え、まじで?!いいなー」  なんて羨ましい、と思いながら羽村を見上げたら、なんか難しい顔してる。 「連れてってやりたい、んだけど…。俺の妹がさ、佐伯のことすっごい気に入ってて、見つかったら面倒っつーか」 「え、なんで?会ったことないのに」 「夏に遊んだあと、中島が写真送ってくれたじゃん。あれを見られてさ、もうそれから佐伯連れて来いってうるさくて」  ふぅってため息をついて、羽村がオレを抱き寄せた。 「ただでさえ佐伯といられる時間多くないのに、妹に邪魔されるとか嫌なんだよ」  眉間に皺を寄せて拗ねたように言う羽村が、いつもより幼く見えてなんか可愛い。  カッコよくて可愛いなんて最強じゃね? 「…分かった。ネコは我慢する。オレも羽村との時間の方が大事」  腰に回した腕で、ぎゅっと羽村を抱きしめながら言ったら、羽村がオレを少し覗き込むようにしながら微笑んだ。 「そんな風に言ってもらえると、すっげぇ嬉しい」  うわ…なんだろ…  両想いってすごい…  なんて突然思った。  オレが好きな羽村が、オレを好きでいてくれる。  たぶん、こんな幸せなことはなかなかない。  ペットショップの中をゆっくり見て回って、本屋なのか雑貨屋なのか分かんない店のよく分かんない商品を冷やかして、それからちょっと早めの昼食にした。  たいていいつもファストフードだから、今日は天丼屋。天ぷらだって江戸時代ならファストフードだけど。  オレは普通の天丼。羽村は天丼にそばが付いてるセットにしてた。 「羽村、エビからいくんだ」 「ん?ああ、佐伯は好きなもん残しとくよな、最後に」  うん、と頷きながらオレはインゲンを齧ってる。 「うちは妹がいるからさ、さっさと食わなきゃ食われるんだよ。容赦ねぇから」 「そっかぁ。オレ一人っ子だからなぁ」  エビは最後だ。  …それでこの前、学食で唐揚げに逃げられてたんだけど。  その時のことを思い出して、また恥ずかしくなったところにメッセージの着信音が鳴った。  天丼が出来てくるまでの間にゲームの話をしてたから、テーブルの上には同じスマホが2台、伏せた状態で置いてある。そのうちの1台、自分に近い方のを表にしてホームボタンを押した。 「あ、こっち羽村のだ。ごめん」 「あれ?入れ替わってた?全然いいけど」 「間違って持って帰ったりしたらやばいね」 「全く同じだからなぁ」  来てたのは母からの「18時頃には帰って来なさいね。暗いから」っていうメッセージだった。普段羽村の部活見て帰る時はもっと遅くなるけど、たぶん母は今日オレが女の子といると思ってる。だから遅くなる前に送って行きなさい、っていう意味のメッセージだ。 「どうした?佐伯。むすっとして」 「18時頃帰って来なさいっていう門限のお知らせ」 「結構早いな。平日より早いんじゃね?実はいっつも怒られてる?」  羽村が心配気な顔でオレを見た。 「ううん、怒られてない。だいじょぶ」  羽村に、母の勘違いを話したくない。  オレが、今日一緒に出かけんのは羽村だって言ってくればよかったんだけど。  …でも羽村を「友達」って言いたくなかった。  だからといって「恋人」とは言えないんだけど。    いつか、言えるといいな…
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