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15 S
「さっきからちょっと元気ないな、佐伯」
昼食を終えて店を出て、オレの肩を抱いた羽村がオレを覗き込みながら心配そうに訊いた。
「あ、ううん。平気平気。門限メールがちょっと、さ…」
「ふーん?ならいいけど」
やばい。変な心配させちゃった。
どんな表情の羽村も格好いいけど、笑ってほしい。
あ!
「ねぇねぇ羽村」
ゆっくり進む先に、カラフルな店が見えた。スマホカバーが壁みたいにズラッと並んでる。
羽村のコートをくいくいっと引っ張って、ちらっとその精悍な顔を見上げた。
「スマホカバー買わね?…色違いで」
偶然を故意にしたい
たまたまお揃いだった、っていうのも、恥ずかしい言い方すれば運命な感じがしてすごく良かった。実際それで羽村と仲良くなった。
でも、お揃いにしようって言ってしてもらえたら、それは自分を受け入れてもらってるってことだと思う。
「うん、買おう。同じの色違いで」
わっ
すごい、羽村笑顔全開…っ
オレを覗き込んで、にっと笑った羽村がオレの肩に回してる腕に力を込めて引き寄せた。
うれしい
「どんなのにする?衝撃に強いやつ?」
「そだなー。どうせ買うなら強いのにしとく?今の百均だもんな」
2人で「これ?」「これは?」って言いながらカバーを見ていく。
うわー、なんかすっごい楽しい!
正直今のは何でもいいやって思って買った。スマホがつるつるし過ぎて使いづらいから、とりあえずカバー付けなきゃって。
でも今回は…
「俺さ、今付けてるやつ、ほんとテキトーに選んだんだ。滑り止めぐらいの気持ちで。それで佐伯と同じだったのも良かったけど、こうやって2人で一緒に選ぶってめっちゃいいな」
「羽村…」
やばい、泣きそう…っ
思わず羽村の胸に顔を伏せた。
「佐伯?」
「…へへっ、ごめ…、ちょっと、うれしくて…」
ずずっと鼻を啜ったら、羽村が肩をぐいって抱いてくれて、それから頭を撫でてくれた。
羽村にぎゅうっと抱きついて、落ち着こうとしてるのか余計ドキドキするのか分かんないなって思った。
……あ……っっ!
やば お店だった…っ
羽村の腕の中で恐る恐る顔を上げて、上目に羽村を見上げたら、アーモンド型のやや茶色い目が、スッと細められた。
「大丈夫、佐伯。とりあえずそんなに客多くないし、知った顔もいないから」
耳に心地いい低い声で告げられた言葉に、少し安心する。
「落ち着いてきた?」
「…うん…」
最後にもう一度鼻を啜って、スマホカバーに目を戻した。
「ね、羽村。これとかどう?」
シンプルな艶消しのスマホカバーを指差して訊いてみた。
「いいな。佐伯は何色がいい?」
「そうだなー。この中だったらこのグレーっぽいブルー」
「俺は黒かな。じゃ、これにする?」
「うん」
うれしい おそろい
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