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16 S
会計を済ませて、すぐ近くに見えたベンチに並んで座って、早速カバーを変えた。
「カバー変えるとさ、スマホ本体も変わったみたいに見えるな」
「うん、見える。キレイになった気になる」
腕と膝が触れてるのが嬉しい。
「中島とかに何か言われるかな?」
「間違えそうだから変えた、とか言っとけば平気だろ。型が同じだからカバーが被るのもそんな不思議じゃねぇしさ。それに元々おんなじだったんだし」
羽村が優しく微笑みながら言ってくれて、ほっとして頷いた。
「だよね。好みが似てるから、また同じの選んじゃってるって思ってくれるよね」
「そうそう」
羽村の大きな手が背中をポンポンて撫でてくれたのが嬉しくて、えへへって羽村を見上げた。
「…やべ」
「え?」
羽村がオレからスッと目を逸らした。…ちょっと目元が赤い。
視線を泳がせてた羽村が、一つため息をついてからオレを見つめた。
「…佐伯はさ、いっつも可愛いけど、時々どうしようかと思うぐらい可愛いよな」
「…え…っっ?」
「俺、毎日理性と忍耐力を試されてる気分なんだぞ?」
「……っ」
もう返事もできなくて、ただ羽村を見つめた。
羽村が目を細めてくすっと笑った。
「なあ佐伯。1コお願いがあるんだけど」
ものすごく魅力的な微笑みを浮かべた羽村が、オレを覗き込んでくる。
「…なに…?」
ドキドキする。
羽村こそ、どうしようかと思うくらい格好いい
「詩音…、って、呼びたい」
どくんと大きく鳴った胸が、キュンとときめいた。
大好きな羽村の口から、その大好きな声で、名前を呼ばれた。
オレの反応を窺うように見つめてくる羽村を必死で見返して、どうにか頷いた。たったそれだけの動きが難しいくらいドキドキしてる。
「…で、でも…、あの…バレない…?」
声も上手く出ない。上擦って、ちょっと掠れた声になった。
「心配なら、2人の時だけにする。それならOK?」
オレはもう一回、うん、て頷いた。
「サンキュ、…詩音」
う…わ……わわわわわわっ
胸、胸が爆発する…っ
好きな人に下の名前を呼ばれるのが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。
胸が苦しくて息もできない。
でも、でもでも、すっごい幸せだ!
あ!
…それなら…っ
「あの…っ、オ、オレも…っ」
ごくんと唾を飲み込んで羽村を、匡也を見つめる。
「匡也って…呼んでいい?」
匡也が目を見張ってオレを見た。そして照れた笑顔を浮かべる。
「…そう、呼んでくれたら嬉しい…」
匡也の声も掠れてた。
見つめ合って、微笑み合って、でもお互い言葉が出ない。
それなのに、身体が浮き上がりそうなほど幸せ。
匡也がため息みたいな笑いを漏らした。
「やばい。名前呼び、すっげぇドキドキする」
低く潜めた声が少し震えてる。
「うん…。呼ぶのも呼ばれるのも、めちゃくちゃドキドキする…」
ドキドキしすぎて自分の声もよく聞こえない。
名前呼ぶだけでこんなにドキドキしてて大丈夫かな。
「…また、どっか見に行く?詩音」
「あ…う、うん…っ」
心臓ってこんなに大きく鳴るんだ、って思いながら手元で散らかってる色々をバッグの中に突っ込んで、お揃いの新しいカバーのかかったスマホをポケットに仕舞った。
元々付けてた百均のカバーもちゃんと取っとこう。
あれも宝物になった。
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