17 S

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17 S

 匡也に続いてベンチから立ち上がってそばに寄ったら、いつもよりちょっと照れた顔をした匡也が肩を抱いてくれた。  しあわせ  大きなクリスマスツリーの横を通り過ぎながら、匡也にクリスマスプレゼント何買おうって思った。今までは親に買ってもらうことしか考えてなかったのに。  あ、でも… 「ねぇねぇ、…き、匡也、…クリスマスって部活、ある?」  上目に匡也を見上げて、すっごい緊張しながら名前を呼んで話しかけた。  オレを見下ろす匡也がアーモンド型の目を見張って、それからぱぁっと光を放つように笑った。  めちゃくちゃ格好いい  やばい  こんな格好いい彼氏、やばすぎる…っ  匡也の腰に回してる腕でぎゅうっと抱きしめて「オレのオレの」って思った。 「クリスマスかぁ。たぶんあるんじゃねぇかなぁ。でもまだ予定出てねぇけど」  匡也もオレを抱き寄せてくれる。 「…クリスマスなんて最近はもう気にもしてなかったな。何年か前までは妹がケーキ作るの手伝ってやってたけど。あ、でも部活でパーティやったか」 「え、え、え、ケーキ?!」  意外!! 「レシピ通り計って作ればなんとかなるもんだぞ?つかお前料理しないな?」  くすっと笑いながら流し見られて息が止まった。 「…し…ない…」  不意打ちでイケメン光線送るのやめてほしい。  命がいくつあっても足りない。  毎回致死量なんだもん。 「あ、なぁなぁ詩音。これ、お前に似合いそうじゃね?」  またドキンと心臓が跳ねて、頭もぐるぐるしながら匡也の手元を見た。  少しくすんだようなブルーの、フードの付いたマウンテンパーカー。 「ちょっと試着してみなよ、な?」 「え、でも…」  いいからいいからって、匡也がオレを連れて試着室の方へ歩いて行く。  スタッフさんは他の人を接客しててこっちを見てない。  上着ならその場で試してもいいのに  試着室のカーテンを開けて、促されるままに中に入った。  え?  匡也も一緒に入ってきて、サッとカーテンを閉めた。そして… 「……っ」  力いっぱい抱きしめられた。 「…詩音…」  耳元で囁かれたら、身体の力が抜けてしまう。  抱きしめてくれる力強い腕に身体を預けて、広い背中に腕を回した。  大きな手が頬を撫でて、少し上を向かされる。  熱い瞳に見下ろされて目を閉じた。  唇が合わさる瞬間が、永遠に続けばいいのに。  柔らかく吸われて、舐められて、唇から匡也と溶け合ってしまいそうだ。  キスってしあわせ  どんなに仲が良くっても、友達とはしない触れ合い  くらくらするほど気持ちよくて、貰っても貰ってももっと欲しくなる。  深く重ねた唇が、徐々に離れていくのが切ない。  おしまいだよ、と言うような小さな口付けをされて、薄く目を開いた。  まだ全然足りないのに…  そう思いながら見た匡也の瞳にも、物足りなさが浮かんでいた。  たぶん、満足することってないんじゃないかな。  ゆっくりと唇を離して、ぎゅうっと抱きしめ合った。匡也の胸に顔を埋めると、大好きな匡也の匂いがする。 「…ダシに使ったコート、着てみる?ほんとに似合うと思うけど」  オレを抱きしめて、頬を擦り寄せながら匡也が訊いてくる。 「じゃあ着てみようかな」  匡也が似合いそうって言ってくれるから。  …でも 「離れないと着られないな」  耳元で低く囁きながら、匡也は自分こそオレから手を離そうとしない。 「うん…そうなんだけど…」  オレだって離れたくない。 「…俺らダメだな」 「うん、だめだめ」  くすくす笑い合って、ようやく身体を離して、匡也はスタッフさんの見てない隙に試着室からスルッと出た。オレはコートを着てみて鏡を見た。  悪くない、気がする。  カーテンをそろっと開けたら、すぐそこに匡也がいた。その袖を引っ張りながらカーテンをもう少し開ける。 「ね、ね、どう?似合う?」 「うん、いい。その色似合う。可愛い」  可愛いって言われて、何の抵抗もなく嬉しいって思ってる自分が、ちょっとだけ恥ずかしい。
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