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19 Kyoya
『モールの、開店に間に合うぐらい早く、行きたい』
佐伯をデートに誘った金曜日の夜。いつもの時間に電話をかけて、日曜の予定を相談していたら、佐伯がそう言った。
早く会いたい、…って言われたって思っていい、んだよな?
そう思うながら返事をして、今日もかなりの気合を入れて電話を切った。
もっと佐伯と話していたかったけれど。
電話を切る時も、メッセージを終わりにする時も、帰りに別れる時も、すごい精神力が必要だ。
佐伯を好きすぎて離れたくない。
でもこの気持ちを、どこまで佐伯に伝えていいか分からない。
朝練と土日の部活は、ギャラリーがいなくて静かだ。足音やボールの音、自分たちの出す音しかしない。中学まではそれが普通だった。
高校に入って、ギャラリーを歓迎してるっていうのが、理屈は解るけど面倒くせぇなって思ってた。わいわいキャーキャーうるさいし、明らかに見た目が好きで見に来てて、でもバスケ自体に興味があるわけじゃない女子、とか邪魔なだけだって思ってた。
でも。
夏休み明けから佐伯が見に来てくれるようになって、俺は手のひらを返した。
誰が最初に言い出したのかは知らないけど、どうもありがとう、そう思った。
「休みの部活はちょっとつまんないな、羽村」
「!」
肩にデカい手をポンとのせられてビクッとする。そんな俺を見て井澤部長がにやりと笑った。
「まあでも頑張ってくれよ。お前もうかなり主戦力なんだから」
「…はい」
「来週の練習試合、お前スタメンでいくから。ガッツリ練習しろよー」
分厚い手が背中をポンポンと叩いていく。
やったっ!スタメン…ッ!
「すげぇじゃん羽村、スタメンかよ。ますますモテるな」
「マジで。見に来てる女子の半分くらいは羽村狙いなんじゃね?視線の動き方的に」
「選び放題だぞ、羨ましいやつ!」
同じ1年のチームメイトの軽口を適当に受け流した。
こいつらは気付いてない
どれぐらいの人に気付かれてるんだろう。俺と佐伯が付き合ってるって。
…井澤部長は、気付いてる。
中島は女子は結構気付いてるって言ってた。
今のところ平和だけど、これから先、何か起こったりするんだろうか。
佐伯とは、わざと普通よりべたべたした友人関係にしてきたから、パッと見は友達だった時とそんなに変わってないと思う。…ただ。
佐伯が前よりもっと可愛くなってる。
それが、俺の目にそう見えてるのか、他のやつにもそう見えるのか、その辺のことは分からないけれど。
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