144人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
2 S
掃除の時間、オレは教室で羽村は大会議室。また離れ離れだ。
先に机を後ろに寄せた羽村がオレの方に歩いてきた。
やばい。格好いい。
「佐伯、今日部活見てくよな?」
スッと長身を屈めてオレを覗き込みながら訊いてくる。
決めつけてくる感じ、嬉しい。
「見てく…よ?」
切れ長の目を見返して応えると、羽村はにっと笑った。
「じゃ、一緒に飯食お?な」
「うん!」
頷きながら応えたら、羽村が目を見張ってオレを見た。そしてオレの耳元でこそっと告げる。
「今の顔、すっげ可愛かった」
思わず羽村を凝視したら、羽村はくすっと笑ってオレから離れて行った。
後ろから「佐伯くん進んでー」って声をかけられて、ハッとして机を運んだ。
顔、あっつい…
俯いてなるべく人のいない方向を向きながら箒で床をはいた。
羽村に、さっきみたいなのはやめてって言った方がいいのかな。
…でも。
言われて嬉しい気持ちは確かにあるわけで、何百回でも言われたいのに、それを自分で止めるなんてとも本気で思う。
ポーカーフェイス、できるようになりたい。
幸い誰にも何にも言われずに掃除を終えて、涼しい顔をして戻ってきた羽村を少し睨んでやったら、最初「ん?」って顔してそれからまたキュって口角を上げて笑った。
イケメンだだ漏れてますけど…。
ほら、上野さんと清水さんがポッとした顔しちゃってるじゃん。
ダメだよー、2人とも。
羽村はオレのだからね。
やっと放課後になって、いつもの4人で学食に来た。窓際の席が空いてる。オレと羽村は窓に背を向けて隣同士で座った。だって正面より近いから。
「佐伯、唐揚げ一個食う?」
好きだよな、って言いながら、不自然じゃない範囲で椅子を近付けて羽村がオレに訊いた。
「うん。あ、でもオレ、ガパオライスにしちった」
しまった。交換できない。
「いいよ?そんなん全然」
そう言いながら羽村が唐揚げを一個、オレのガパオライスの上にのっけてくれた。
「いやでも羽村、この後部活でめっちゃカロリー使うのに…」
オレは立って見てるだけなのに…。
あ、そうだ
「じゃあ羽村、これ」
ガパオライスの上にのってる、ちょっと片寄った目玉焼きの黄身のところからスプーンを刺して、肉多めになるようにすくって羽村の方に向けたら、羽村はちょっと驚いた顔をした。それからちらっとオレを見て、唇を開いた。
「学食のガパオライス、何気に結構美味いからオレ好きなんだよね」
へへって笑いながら言ったら、羽村が口をモグモグさせながら頷いた。
「…確かに美味い。初めて食った」
「あ、そうなんだ。もう一口食う?」
「ん?いやいい、お前食え。好きなんだろ?」
微笑んで訊かれて、うん、と頷いて応えると、羽村がオレの背中を指先でとんとんと叩いた。そして自分の唐揚げ定食を食べ始める。オレもガパオライスをすくって食べた。
やっぱ美味
なんとなく、羽村のくれた唐揚げを後に残しながら食べ進めていく。
あ、しまった
唐揚げが器の中でコロコロ転がって、スプーンにのってくんない。
もっとご飯が残ってるうちに食べるべきだった。そしたらこんなに転がんなかっただろうと思う。
「…なにやってんの、佐伯。唐揚げ逃げる?」
もう食べ終わった羽村がオレの方を見てくすっと笑った。
恥ずかし…
「じゃあお返し、な?」
最初のコメントを投稿しよう!