2 S

1/1
144人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ

2 S

 掃除の時間、オレは教室で羽村は大会議室。また離れ離れだ。  先に机を後ろに寄せた羽村がオレの方に歩いてきた。  やばい。格好いい。 「佐伯、今日部活見てくよな?」  スッと長身を屈めてオレを覗き込みながら訊いてくる。  決めつけてくる感じ、嬉しい。 「見てく…よ?」  切れ長の目を見返して応えると、羽村はにっと笑った。 「じゃ、一緒に飯食お?な」 「うん!」  頷きながら応えたら、羽村が目を見張ってオレを見た。そしてオレの耳元でこそっと告げる。 「今の顔、すっげ可愛かった」  思わず羽村を凝視したら、羽村はくすっと笑ってオレから離れて行った。  後ろから「佐伯くん進んでー」って声をかけられて、ハッとして机を運んだ。  顔、あっつい…  俯いてなるべく人のいない方向を向きながら(ほうき)で床をはいた。  羽村に、さっきみたいなのはやめてって言った方がいいのかな。  …でも。  言われて嬉しい気持ちは確かにあるわけで、何百回でも言われたいのに、それを自分で止めるなんてとも本気で思う。  ポーカーフェイス、できるようになりたい。  幸い誰にも何にも言われずに掃除を終えて、涼しい顔をして戻ってきた羽村を少し睨んでやったら、最初「ん?」って顔してそれからまたキュって口角を上げて笑った。  イケメンだだ漏れてますけど…。  ほら、上野(うえの)さんと清水(しみず)さんがポッとした顔しちゃってるじゃん。  ダメだよー、2人とも。    羽村はオレのだからね。  やっと放課後になって、いつもの4人で学食に来た。窓際の席が空いてる。オレと羽村は窓に背を向けて隣同士で座った。だって正面より近いから。 「佐伯、唐揚げ一個食う?」  好きだよな、って言いながら、不自然じゃない範囲で椅子を近付けて羽村がオレに訊いた。 「うん。あ、でもオレ、ガパオライスにしちった」  しまった。交換できない。 「いいよ?そんなん全然」  そう言いながら羽村が唐揚げを一個、オレのガパオライスの上にのっけてくれた。 「いやでも羽村、この後部活でめっちゃカロリー使うのに…」  オレは立って見てるだけなのに…。  あ、そうだ 「じゃあ羽村、これ」  ガパオライスの上にのってる、ちょっと片寄った目玉焼きの黄身のところからスプーンを刺して、肉多めになるようにすくって羽村の方に向けたら、羽村はちょっと驚いた顔をした。それからちらっとオレを見て、唇を開いた。 「学食のガパオライス、何気に結構美味いからオレ好きなんだよね」  へへって笑いながら言ったら、羽村が口をモグモグさせながら頷いた。 「…確かに美味い。初めて食った」 「あ、そうなんだ。もう一口食う?」 「ん?いやいい、お前食え。好きなんだろ?」  微笑んで訊かれて、うん、と頷いて応えると、羽村がオレの背中を指先でとんとんと叩いた。そして自分の唐揚げ定食を食べ始める。オレもガパオライスをすくって食べた。  やっぱ美味(うま)  なんとなく、羽村のくれた唐揚げを後に残しながら食べ進めていく。  あ、しまった  唐揚げが器の中でコロコロ転がって、スプーンにのってくんない。  もっとご飯が残ってるうちに食べるべきだった。そしたらこんなに転がんなかっただろうと思う。 「…なにやってんの、佐伯。唐揚げ逃げる?」  もう食べ終わった羽村がオレの方を見てくすっと笑った。  恥ずかし… 「じゃあお返し、な?」
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!