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7 Kyoya
自分が、同性を好きになるなんて思ってもいなかった。
最初に喋った時から佐伯のことはキレイなやつだなって思ってた。
佐伯は人懐こくてパーソナルスペースが狭くて、どんどん俺に近付いてきた。でもどんなに距離を詰められても、不思議なほど嫌じゃなかった。
それどころか段々佐伯を可愛いと思うようになっていった。
やばいやばいと思いながら、同時に可愛い可愛いって思って、そのうち可愛いが上回ってしまった。
中島たちのおかげもあってやっと告白して、佐伯をこの腕に抱きしめた。
佐伯の涙はめちゃくちゃ綺麗だったけど、俺がもっと上手くやってれば泣かさずに済んだだろうにと思った。
初めてキスをした翌日の朝、駅のホームで見た佐伯の笑顔は格別に可愛くて綺麗だった。光り輝くような笑顔ってのはこんなんだなって思って、それが自分に向けられていることが嬉しくてたまらなかった。
ただ、問題は。
たぶん、2人っきりになったら勉強にならねぇ
自分だけならまだしも、佐伯に迷惑かけるわけにはいかない。
不自然じゃなく、佐伯に不信感を与えず、中島と三田と4人になるようにしたい。
…さすがに「2人っきりは手を出しそうだから無理」なんてカッコ悪くて言いたくない。
だから…
「頼む、中島。放課後、4人でどっか行くように上手く誘導してくれ」
休み時間、トイレに向かった中島をさりげなく追いかけて、手を合わせながらこそっと告げた。
「…なに、2人っきりになりたいんじゃねーの?両想い成立だろ?」
トイレからの帰り、こそこそ話しながらゆっくり歩いている。
「なりてぇけどダメなんだよ。…俺そんな理性強くねんだよ」
友人にこんな話すんのもかなり恥ずい。
「…あー…、はいはい。分かったよ。乗りかかった船だ、なんとかしてやる」
しょうがねぇなぁって笑いながら、中島が俺を見上げて言った。
「昨日も、ありがとな。マジで」
「いいって、いいって。もうな、じれったくて仕方なくて『早くしろ』って思ってたんだよ、おれらは」
『おれら』
「…やっぱ三田も気付いてた?」
今度は中島はちょっと呆れ顔で俺を見る。
「三田も、だけどさ、お前らを追っかけてる女子たちも気付いてたよ。で、何人かは離脱したけど、他は見守ってる。お前らのこと」
「マジで?」
「マジで」って言った中島がニヤッと笑った。
「佐伯、ぜんっぜん気付いてねぇだろ、おれらのこと」
教室の手前で立ち止まって、廊下の壁にもたれた中島がボソッと訊いてくる。
「たぶん」
俺も中島の隣に立って、同じように壁に背を当て中島を見下ろした。
「あいつ、自分の気持ちにも全然気付いてなかったもんな。当然羽村の気持ちにも気付かねぇし。普通あんだけのことされたら気付くだろってみんな思ってたぞ。羽村も苦労するよな」
中島にポンポンと肩を叩かれて頬が熱くなる。中島が俺の目の前に移動した。
「まあ周りはおおむね好意的だから安心しろ。女子は面白がってるし、男子で気付いてるやつも強敵が減って喜んでるさ」
戻るぞって教室に足を向けた中島が、刈り上げた襟足を撫でるのをなんとなく見ながらその後ろに付いて教室に入った。
佐伯がまっすぐにこっちを見ていて、一瞬ぱぁっと嬉しそうな顔をしてから、不満そうにぷうっと頬を膨らませてこっちに歩いてくる。
めっちゃ可愛い なんだあれ
「2人ともトイレ長くね?」
そう言って唇を歪めて見上げてくる佐伯を抱きしめたい衝動を、ギリギリの理性で抑えつける。
可愛いにもほどがあるだろってぐらい可愛い。
これはダメだ。マジでやばい。
2人っきりとか、俺確実に佐伯を押し倒しちまう。
「あ?気のせい気のせい。こんなもんだって、な、羽村」
中島が俺を見上げてそう言って、俺は「そうそう」って感じで頷いた。
佐伯は「ふーん」って、やや不満気に俺を上目遣いで見つめてくる。
その後ろで、三田が肩を震わせて笑っていた。
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