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 テスト前もテスト中も、中島が上手くやってくれて、佐伯は多少何か言いたげではあったけど、特別変わった様子はなく4人で過ごした。 「ねぇねぇ羽村ぁ」  ファミレスやファストフードで隣に座ってた佐伯は、少し甘えた声で俺を呼んで、教科書を指差しながら寄ってきた。  向かい側に座ってる中島と三田は知らんぷりを決め込んでくれてて、だから俺はベンチシートに突いていた佐伯の手に、自分の手を重ねた。  佐伯はぴくっとして俺を見て、それからはにかんだように微笑んだ。  そして細い指で俺の指をきゅっと挟んだ。  心臓がドドドッと鳴って、正直勉強どころじゃない。  それをどうにかこうにか立て直し、佐伯の指差す問題を一緒に考えた。  すげぇ楽しかったけど、テストはめちゃくちゃ不安だった。  ていうか、終わった今もかなり不安だ。  一応解答用紙は埋めたけど、全然自信はない。  まあ、埋められただけ良しとするか。  全教科のテストが終わってチャイムが鳴って、クラスメイト達が解放感の笑顔を浮かべる中、佐伯は一人浮かない顔をしていた。  テストが終わったら、俺は部活が始まる。  朝練があるから朝は会えなくなる。放課後も、佐伯は見に来てくれるし待っててくれるけど、でも話せる時間は少なくなる。  佐伯が俺と過ごす時間が減ることを不満に思っているんだとしたら、申し訳ないのと同時に嬉しい。  あ、そうだ  休み時間に入った教室を見回して中島を探した。  いたっ  テストの時は席は出席番号順になってる。中島はテスト用の席から移動し始めたところだった。その中島の腕を掴んでベランダへ連れ出した。 「今度はなんだよ、羽村」  12月の冷たい風が吹くベランダは、陽が差していても寒い。中島はポケットに手を入れて苦笑いしながら俺を見上げた。 「…佐伯ってさ、遊びに行くならどこが好きなんだ?」  中島の視線から目を逸らしてボソッと訊くと、中島が「ははっ」っと笑った。 「今度はデートのリサーチか。そうだなあ。夏休みに行って佐伯が一番楽しそうだったのはあれだよ、スポーツアミューズメント。羽村も来た所」 「あー…、あそこか」  でもあそこに2人はどうなんだ? 「ま、あそこは人数いた方が盛り上がると思うけどな。あとは、映画もたまーに行くし、ウインドショッピングとかうろうろすんのも結構好きだぞ。あ、カラオケはいまいち、かな」  ベランダの手摺りにもたれて、当たり前のように佐伯の好みを話す中島の声を聞きながら、なんか胸がモヤモヤしてくる。 「…羽村、訊いといてムスッとすんなよ。つかおれに嫉妬してんじゃねーよ」  中島が、片眉を歪めて笑いながら肘で俺を小突いた。 「お前が夏休みに誘っても誘っても来ねーからだろ?おれらはな、どこ行っても佐伯の『羽村も来れたらよかったのに』を聞かされてたんだぞ?羽村、羽村、羽村ってさ、なんであれで本人気付かなかったのか、周りにバレてねぇって思ってんのか、おれにはサッパリ分かんねぇよ」  くすくす笑う中島の言葉を聞きながら、俺はどうにか呼吸をしている。  心臓が強く鳴り過ぎて苦しい。  真夏のランニングだってこんなに苦しくはない。 「佐伯はさ、羽村と行けばどこでもいいんだと思うぞ?おれは。だからとりあえずモールでも行けば?」  中島が、からかうでもない優し気な笑顔を向けてくれて、居心地が悪いような不思議な気持ちになった。 「…分かった。誘ってみる。ありがとな、中島」 「いいよいいよ。佐伯な、100%OKすんぞ。しかも食い気味に即答する。賭けてもいい」  あははと笑いながら中島が言った時、休み時間終了を告げるチャイムが鳴って、俺は中島に続いてベランダから教室に戻った。
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