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 学校で一日同じクラスで過ごしても、話をする時間も顔を見る時間も、実はそんなに多くない。  基本休み時間だけ。細切れの短い時間。しかもそれすらも、全部、というわけじゃない。  その少ない時間の中でも、佐伯は様々な表情を見せてくれる。  笑ったり、ふくれたり、睨んできたり、しかもそのどれもがめちゃくちゃ可愛いときてる。  丸一日、あの顔を見ていたい  どのタイミングで言おうか。  そう思いながら昼飯を終えて、2人でピロティの隅の自販まで来た。  4月に佐伯が声をかけてくれた自販前。    あの瞬間が運命の分かれ道だ  佐伯の肩を抱いたままコインを投入口に入れて、スポーツドリンクのボタンを押した。出てきたペットボトルを取るには佐伯から手を離さないといけない。  そんなことに腹を立てている自分がいた。 「オレも何か買っとこっかなー。羽村、今日って夕方まで?」  佐伯の問いに応えようと身体を起こしたところで、目に入った人物に思わず息をのんだ。 「そうだよ佐伯くん。今日もバスケ部見に来てくれるのかい?」  身長はさほど違わないのに圧迫感を感じるゴツい身体。 「わっ」  そのデカい手が佐伯の頭にのった。  ムッとするなと言う方が無理ってもんだ。 「…部長、驚かさないでくださいよ」  俺の所属している男子バスケ部の現部長、井澤先輩が、一見人好きのする、でもよく見ると人の悪い笑みを浮かべた。  頭に手をのせられたまま、その手の主を見上げた佐伯の華奢さが際立つ。  早くその手をどけろ!  そう思いながら井澤部長を見上げたら、にやっと笑いかけられてムカついた。  俺は正直、この人が苦手だ。 「…井澤先輩、手、重いんですけど…」  佐伯の遠慮がちの訴えに、ようやく井澤部長が手を離した。 「体育館寒いから、あったかくしておいでね、佐伯くん」  佐伯に笑いかけたあと、井澤部長は一瞬俺を見てニヤッと笑った。  そして俺たちに背を向けて、体育館の方向に歩いて行った。  勝手に人のもんに触んじゃねぇよ  手を伸ばして、井澤部長が撫でていった茶色がかった佐伯の柔らかい髪を梳く。 「あ、なんか変になってる?」  上目遣いで訊いてくる可愛い佐伯に、少し嘘をついた。 「ん?ああ、そんなとこ」  ほんとはどこも変じゃない。  触られたのがムカついたから撫でてるだけ。  井澤部長は、佐伯を気に入ってるんだと思う。  あの人バイなんだよな。  本人にあんまり隠す気がないらしくて、聞く気がなくても漏れ聞こえてくる。限りなくセフレに近い、恋人とのエピソードなんかが。 「佐伯、もうコート着とけ、寒いから」  佐伯のカバンを持ってやって、コートを着るのを見守る。  部活中に体育館のキャットウォークを見上げたら佐伯がいる、っていうのはほんと最高で、気分も上がるしパフォーマンスまで上がる。    だから佐伯にはそこにいてほしい。  でも井澤部長には近付けたくない。 「で、ほら、これも着てろ」  自分のコートを着た佐伯に、更に俺のコートを着せかける。  俺のだから誰も触るな  そんな気持ちを込めて、もちろん佐伯が寒くないようにと着せたコートの中に、佐伯の小さい顔が埋もれててめっちゃ可愛い。  ついもう一度頭を撫でて、部室棟へ向かった。  部室のドアを開けると、12月だというのに中からはモワッとした空気が流れ出てきた。当たり前だが男臭い。  佐伯は抱きしめたらいい匂いがする。  着替えて体育館に入っていつもの場所を見上げたら、佐伯が見下ろしてたから手を振ってみた。  あ  佐伯、手振り返してくれた。コートから指先しか出てないの可愛い。 「お、手ぇ振ってくれてんじゃん。よかったな、羽村」  井澤部長が俺の耳元でボソッと言ってきて、思わずその眉の濃い我の強そうな顔を凝視した。
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