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「おっ!?」
刃が体に届いた瞬間、私の口から漏れたのは悲鳴ではなく、むしろ歓喜の声だったかもしれない。
事態が進展したから、これで何かわかるかもしれない。そんな期待感を抱いたのだ。
しかしナイフの刃がお腹の肉に埋まるや否や、その気持ちも余裕も吹き飛んでしまう。
焼けつくような痛みを感じたからだった。
「おい、どういうことだ!?」
とても夢とは思えないような、ハッキリとした現実感を伴う痛み。
恐怖で体が強張るよりも「この場から逃げなければ!」という本能的な衝動が勝って、私は走り出そうとする。
しかし私の腰には男の左腕が回されており、ガッシリと拘束されていた。
男の右手はナイフを握ったまま。いったん深々と抉ってから引き抜き、グサリグサリと何度も私の腹部を刺し続ける。
「……!」
あまりの激痛で、声を上げることすら出来なくなった。
いったい何がどうなっているのか、全く理解できない。これほどの痛みを夢の中で感じるなんて、どう考えても不自然ではないか。
夢の中で刺されたからといって、現実の私が血を流すことはないはず。だから失血死の可能性はないにしても、激痛によるショック死はありえるかもしれない。降雨と尿意の例のように、夢と現実で感覚は微妙にリンクしているのだから。
刺される度にビクンビクンと、自らの鼓動に異常を感じる。それほど強烈な苦痛だった。
今までならば、こうなる前に夢から目覚めていたのに。雨が降り出して、それを契機として終了する夢だったのに。
雨よ降れ。
心の中で叫びながら見上げれば、いつのまにか雲は消え、月と星が明るく瞬いていた。
雨が降るような空模様ではなく、この悪夢が終わる様子もない。
そして私の体に走る激痛は、ますます勢いを増していく。本当にショックで心臓が止まってしまいそうなくらいに……。
(「雨降れば悪夢も終わる」完)
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