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「おーい!」
無性に嬉しくなって、そちらに駆け寄る。
私と同じくらいの背格好の男性らしい。彼もこちらに手を振っているのだろうか。右手を高く挙げているのが目に入った。
さらによく観察しようと、男の方にライトを向けた瞬間。
突然雷鳴が轟き、稲光で辺りが明るくなる。
「……見たな?」
男の呟きは小さかったけれど、私に耳にはハッキリと届いていた。
照らし出された男の表情は、鬼のように凄まじい形相。掲げた右手には、血塗れのナイフを握っている。
雷光のおかげでようやく気づいたが、男の足元にはグッタリと寝転がる人間の姿もあった。顔は見えないけれど髪の長さから判断して、おそらく女性だろう。
男は彼女の体を跨いで、右手のナイフを向けながら、私の方へと歩み寄る。
「……ひっ!」
声にならない声が、私の口から漏れた。
頭では「逃げなければ!」と思うものの、恐怖で体が硬直して、全く足が動かない。
視界の中で、男の姿がグングン大きくなって……。
そのナイフが私の体に届く寸前。
急にザーッと雨が降り出したかと思ったら、私の意識は暗転した。
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