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第24話 悪 夢
【side しん】
「……っ!!」
早い心拍と共に飛び起きる。怖い夢。
だけど、起きてしまうとその内容は忘れてしまった。
「どんな夢……だっけな」
それでも、夢で良かったと思う。
「カズ……」
そっと隣に手を伸ばす。だけどそこに探した人物は寝ていなかった。冷たい布団。
「まだ寝に来てないのか」
スマホを手に取り時間を確認する。深夜1時。
隣の部屋から薄っすらとカズの声が聞こえる。どうやら電話しているようだ。
ー 寝ろよ。電話なんかしてないで、早く寝に来いよ! ー
そう言ってしまいたい。でも言わない、言えない。僕、そんなキャラじゃない。
隣の部屋からは、何やら楽しそうな話し声。話の内容までは聞き取れないけど、時折カズが笑っている。
なんだよ……。
「……さみしいだろ……」
そう吐き出し、近くにあったカズの枕を引き寄せ、声が聞こえないように抱きしめた。
「一緒に寝てよ……」
そうぼやいた時、カズの部屋のドアが開く音が聞こえた。そして廊下からカズの声が聞こえる。
「もういいだろ? 遅いし、切るぞ」
寝に来る。僕は慌ててカズの枕を元に位置に戻して、壁の方へと寝返りを打った。
「えぇ? うわ、うるせーwww とにかく早く寝に行かないと俺のカワイ子ちゃんが寂しがるんだよ。だからマジで切る。え? 恋人居ないだろって? バッカ、お前! 俺これでもイケメン売りにしてんだからな!」
そう言って楽しそうにカズは笑った。
……かわい子……ちゃん。
俺はなんだか恥ずかしくて、だけど嬉しくて。カズは優しいから、相手の話、こんな時間まで聞いてあげて、元気にしてあげて、そして僕のことも気にしてくれる。カッコよくて、優しいカズ。
「うん、うん。分かった分かった。んじゃ、また今度な。ゆっくり寝ろよ。おやすみ」
電話を切ったカズが、そろりと寝室のドアを開ける。そして寝たふりしている僕を覗き込み、優しく笑ったのが聞こえた。
「おやすみ、しんちゃん。ぎゃーして寝るよ。……あ、噛んだ」
ひとり言。
だけど、思わず吹き出してしまった。
「うわ、起きてるじゃん! しんちゃん!」
「あははは! ぎゃー、ってなんだよ」
「噛んだのー!! ぎゅーって言いたかったのぉぉ!」
おかしくって、さっきまで寂しくて拗ねてたのが自分でも嘘みたい。ほんの数秒で僕を笑わせてくれるカズは、まるで魔法使いみたいだ。
「夜中に ”ぎゃー” はダメだよ。お隣さんが迷惑がる」
「ぎゃーぎゃー言わないも~ん! しんちゃんのことぎゅーして寝るのぉぉ」
「はいはい。どうぞ、空いてますよ~」
カズは笑顔でベッドにもぐりこんでくると、可愛い笑顔で僕の体に腕を回した。
「おやすみ、しんちゃん」
ありがとう、カズ。
怖い夢、忘れられそうだ。
「うん。おやすみ。また明日ね」
夢で会おう。楽しい夢、見させてね、カズ💕
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