第27話 もみじを見たい

1/1
前へ
/53ページ
次へ

第27話 もみじを見たい

【side カズ】  今年は異例の気候により、11月なのに暑い日が続いた。観測史上初めての事だってテレビでもニュースになっていて、風呂上がりにタンクトップで過せる喜びを俺はしっかりと噛みしめていた。(言わずもがな、しんちゃんは引いてたけどね。超絶寒がりだからw)  だけど、暑い暑いといっても、ここ数日でようやく秋らしい気候へと変わって来て、木々の葉っぱも色付きはじめている。 「もみじ、見に行きたい」  しんちゃんが付けるだけ付けて全然見ていなかったテレビを、何故か俺が熱心に見ている。大体いつもこうだ。しんちゃんよりずっと俺の方がテレビに集中している。  俺がテレビをあまり見ないのは、楽しくないとかそういうことではなくて、ついつい見入って熱中し、他のことが手につかなくなるから だ。 「お、いいね。見に行く?」 「やったぁ! 行こう行こう! お弁当持ってく?」 「え、外で食べるの? さすがに寒くない?」  寒いか……そうか。木枯らし吹く中、弁当はきついな……確かに。 「あったかいスープとか持ってく?」 「スープ!?」 「水筒に入れて」 「まさか、それをストローで飲むわけじゃあるめぇな!?」  しんちゃんはおかしそうにきゃっきゃと笑い、「太めのストロー挿し込めば、クルトンも吸えるかな~」なんて言っている。ストロー使って飲む気じゃん!  結局僕らは週末、温かいお茶の入った水筒だけを持ってお出掛けした。  運転はしんちゃん。レンタカーを借りた。 「帰りは、俺運転しようか?」  そう申し出たが、しんちゃんはにっこり笑って首を振った。 「いいよ。カズ、運転苦手でしょ?」 「う……、まぁ、うん。好きでは……ないけど」 「大丈夫だよ、僕が運転するから」  しんちゃんって本当に俺に甘い。そしてそれに甘えてしまう俺も俺だけど……。けどでも……だって、運転本当に苦手なんだ! ごめん、ありがとう。めちゃくちゃ助かる!!!!! 「意外だよね、カズって。ブイブイ運転しそうな顔してるのにさ」 「よく言われる」 「ふふ。お酒だって沢山飲みそうな顔してる」 「飲めないこともないけど、晩酌さえしないしね、俺」 「だねwww それに、スポーツだってしてそうだけど」 「超インドア派なんだな~!」  しんちゃんは、心底おかしそうに笑い、「顏に似合わず甘党だし、オタクだしね」と付け加える。オタクはもはや褒め言葉として受け取っておこう。  俺のギャップを楽しむしんちゃんの耳に、そっと口を近づける。 「しかも、こう見えてゲイだしね」  しんちゃんはまん丸の瞳で、まるで驚いたように俺の方を見た。 「ゲ……イ?」  え? そこ、今更ビックリするところ? 「だって……ほら、俺ら、付き合ってる……し?」 「カズってゲイなの?」  食い気味にもう一度尋ねられ、俺は首を傾げた。 「いや……、今のところしんちゃん以外の男に恋したことは……ないけど」  しどろもどろで返事すると、しんちゃんは「だよね」とえらく納得したような態度で頷き、小さく息を吐き出してハンドルを握り返した。 「ゲイってのは、女の子を愛せない人のことだよ。カズはそうじゃないでしょ?」 「まぁ……、そうね」 「ビックリさせないでよ~」  あまりそこまで拘っていなかった。だけどしんちゃんはゲイだから、バイセクシャルと一緒にされるのが心外なのかもしれないな。  目的地に到着し、紅葉を楽しみながらお寺を参拝する。観光客がたくさんいた。みんな赤や黄色に彩られた木々を見上げ、懸命に写真を撮っている。 「綺麗だね!」  しんちゃんは携帯カメラすら取り出すこともなく、紅葉を見上げて俺に笑顔を向けた。 「うん! 真っ赤! すっごく綺麗!」 「やっぱりスープ持ってきたらよかったかな~。そこのベンチに座って飲めるのに~」 「お茶で我慢してwww」  二人で綺麗な落ち葉を拾ったり、どんぐりや松ぼっくりを拾っては、コンビニのレジ袋に入れた。 「これ、拾ってどうするの?」  尋ねるとしんちゃんは「茹でる」と返事するから、ついにドングリや松ぼっくり料理を食す時がきたのかと悲しくなったが、どうやらそういうことではないらしく、拾った木の実は、記念にリースにする、と言われた。 「クリスマスリース?」 「まぁ、それでもいいけど……、落ち葉のリースにしたいな~」 「俺も一緒に作れる?」 「作れるよ! 一緒に作ろう!」 「やったー!」  俄然木の実拾いが楽しくなる。なんでもDIYしちゃうしんちゃん、可愛いと思う!  俺はただ一緒にもみじを見たかっただけだけど、今日の記念に、とリース作りを考えてるんだから、可愛い以外の何ものでもないだろ! 今まで俺、こんな恋愛したことないや。  しんちゃんとの毎日は、ほんとにいつも新鮮で斬新! 「俺、しんちゃんのことすっごく好き!」  しんちゃんは木の実を拾いながらこっちを振り返りもせずに、「ん」と素っ気ない返事をしたけど、めちゃくちゃ照れてクールぶってるのがよ~く分かる。案の定、顔を覗きこもうとしたら、両手で顔を隠してつんと顔を背けるから、おかしくって笑っちゃった。  しんちゃん。俺のこと好きになってくれてありがとう。ホントに毎日幸せだよ💕 097badd3-04d4-44c0-be0f-745a26aae1ce
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加