第29話 しんちゃんの誕生日

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第29話 しんちゃんの誕生日

【side カズ】  12月7日はしんちゃんの誕生日! 月末にはクリスマスも控えていることだし、ケーキはアイスケーキを準備した。これなら保存も効くし、「またケーキ?」とはならないだろう!  だけど、買い出しに出掛けたら、スーパーにはタワーのごとくシャンメリーが並べられていたので、クリスマス用ではなく、誕生日用に二本、籠に入れる。しんちゃんはお酒をあんまり飲まないから、シャンパンじゃなくてシャンメリーで丁度いいのだ! とてもかわいい!  今夜はどんなご馳走を作ろうかな、と数日前から考えていた。  偏食だから食べられないものも多い。お肉は食べられないけど、ハンバーグは食べられたり、ソーセージは苦手だけど、ハムは食べられたり……と、食の好みを把握するのがなかなか難しい。というかソーセージに関しては、「皮なしソーセージなら食べる」とか言うのだ。どあほう、パリっとするから美味いんだろうが! と、肉好きの俺が豪語しても、きっとちっとも彼の心には響かないんだろうwwww  だけど、肉本体は食べないけど、肉から出るうま味成分に関しては、今のところ「嫌だ」という話を聞いたことがない。カレーやシチューに肉を入れるけど、「肉の味がして美味しくない」とは言わないのだ(肉はよけるけどw)。おでんもそう。牛すじやソーセージを入れていても、「肉味だ!」と文句を言われたことがない。……我慢しているだけだろうか?  いや、だけど。しんちゃんがカレーやシチューを作る時だって、ちゃんと肉準備して鍋にぶち込んでるし、うま味成分だけでも摂取しようと努力しているのだろう。あの人一人暮らし始めたら、どうやってカレー作るつもりだろうか。今、俺が一緒に居るから肉食ってやれるけど……。  ……いやいや、「今は」じゃない。これから先ずっと、だ。……な~んて言ったら…………、重い……かな。  今日の誕生日ディナーは、マカロニミートグラタンを作る。ひき肉は食べられる、という謎の耐性をここぞとばかりに利用させてもらう。ちょっとでも肉を摂取して貰おう。体のためにね。あとは、俺、最近ドレッシングを作ることにハマってるんだよ。だからサラダも忘れず準備して、あとはフィッシュバーガーを作ろうと思うんだ!  生魚は食べられないみたいだけど、火を通せばしんちゃんも食べられる! 高菜とフィッシュフライのタルタルバーガー! お気に召してくれるといいな~!  しんちゃんは今日、朝からスタジオに出向いてて、お昼はそっちで食べている。だから俺は、朝から歌をうたってた。しんちゃんに貰った、たった一曲の大事な歌を。  帰ったら、編集して夜には配信しようと思ってる。  思ってる。  ……思って……、思っていた。  思っていた……の、だが。 「なんじゃこりゃ」  しんちゃんに曲提供して貰った歌い手さん達が、たくさん「shin様 Happy Birthday !」と題してたくさん歌をUPしていたのだ。  待て待て待て。え? 愛されすぎじゃない? なんなら俺、出遅れてるよね?  対抗心どころか、一気に気持ちがしぼんだ。  しんちゃんは愛されてる。それが嬉しい反面、悔しい。俺だけの……しんちゃんじゃない。でも例えば、しんちゃんが俺だけの作曲家になって、もう誰にも曲提供しないって言ったら……、俺は果たしてそれ……「嬉しい」と思うんだろうか。  正直、よく分からない。  束縛したいわけじゃないから。しんちゃんが「楽しい」と思うものを突き詰めて欲しいと思うから。  うまくもない俺の歌。それでも、無邪気に歌って踊って、アバターの俺は楽しそうに画面の中で手を振る。「shin様おめでとう!」そう言って……。  俺は、歌い手じゃない。しんちゃんにたくさん曲を貰ったり、とんでもなく歌の上手いやつらは、俺のお祝い動画を見て、鼻で笑ったりするんだろうか。お前ごときがshin様に曲もらってんじゃねぇよ、と思われたりするんだろうか。  悲しいなぁ……。  持ち前のマイナス思考が大暴走を始め、俺は編集作業を途中で止めた。 「ご飯……作って待ってよう」  まだ夕ご飯には全然早いんだけど。  けど、早めに下ごしらえを始めておいて良かったのだ。下ごしらえの最中、事務所から電話がかかって来て、俺は急遽そちらに出向くことになった。  俺は元々、モデルとして芸能事務所に所属していたのだが、一年半ほど前に「配信者レーベル」を新しく立ち上げるということで、正体を隠し趣味で配信をしていた俺に白羽の矢が立った。オーディションを受けることもなく、俺は、新レーベルの立ち上げと共に「プロ」の肩書きを手に入れたわけだが、特に著しく動画再生数が増えることもなく、順調に「いつも通り」の平常運転を繰り返す日々。  そんな中、マネージャーから「赤ずきんくん」として招集された。こいつなら暇してんだろ、と思われてるんだろうな。絶対そうだと思う。 「どしたんすか?」  それでも文句も言わずに事務所に顔を出すと、仕事が、2~3増えた。  やったぜ!!!!!!  帰りは19時を回ってしまったのだが、俺はスキップで家に帰り、大急ぎでディナーを仕上げた。途中しんちゃんが帰ってきて、ちょびっとご飯作りを手伝われてしまったけど(座っててって言ったのに~)、食卓につき二人きりの誕生日パーティー開始💕  シャンメリーで乾杯し、ご飯を食べながら、それぞれ今日一日の活動報告をしあう。フィッシュバーガーを美味しいと言ってくれるしんちゃんに大満足! ご飯の後は、アイスケーキにろうそくを立てた。  用意した誕生日プレゼントは、冷めないマグカップと、ワイヤレスイヤホン。 「え、冷めないの!?」  しんちゃんはびっくりして、ウキウキしながらカップを取り出した。 「そう、この台がヒーターになってるから、この上にカップ置いてる限り冷めないよ」 「まじかぁ! めっちゃいいじゃん! ありがとう!」 「火傷しないでね。ストローで飲むとあちちだから」 「うん! 気をつける!」  しんちゃんは顔いっぱいに笑顔を作ってくれる。可愛いなぁ~、嬉しいなぁ! 「しんちゃんは、青色が良く似合うよね!」  マグカップは優しい水色をチョイスした。 「そうかな? でも、確かに青、好き! カズはイメージ……赤かな? 良く似合うよね! あ、でも、赤ずきんくんだからかな? イメージ引っ張られてるのかも?」 「ははは! そうかもね? 本名にも赤、ついてるしね」 「あ、そうじゃん! 赤嶺さんじゃん!」 「ふふ、だから 赤ずきん なんだけどね」 「そういうことー!?」  しんちゃんはまるで、目から鱗とでもいうように驚いたのち、「はっ!」と何かに気付いた。 「僕の名前にも青、付いてる! 蒼汰だもん!」 「わっ! ほんとだ! 引っ張られてるの、俺の方かも!?」  二人で大笑いして、改めて思う。二人でいる時は、やっぱり幸せだな、って。楽しいなって。  離れ離れの時ほど、要らぬこといっぱい考えて気持ち滅入ってしまうけど、しんちゃんが目の前で笑ってくれると、心配ごとが、小さいことの様に思える。  しんちゃんの活動ぶりを見ては定期的に自信を無くして落ち込んでる俺だけど、結局回復魔法を持ってるのだってしんちゃんだけなんだ。  もしかして、俺の世界の中心は、しんちゃんなのかも。  あ、そうかも。そんな気がする。  …………重いなwwww  でも俺は……しんちゃんが笑ってくれる世界で息をしていたいんだ! b60ee08f-3900-4280-927c-f703065a5ae5
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