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(なんていうか、手が熱い……)
理仁の手が、何処となく熱いような気がする。でも、それ以上に唯の手も熱い気がする。
だから、唯はなにも言わずに理仁に続く。エスカレーターを降りて、向かったのは二十店舗以上が連なるレストラン街。
店によってはもうすでに行列が出来ているが、そこまで多くはない。早くに来てよかったと、胸をなでおろす。
「唯。なにか食べたいものはあるか? あるのならば、言ってくれ」
「……理仁君」
ふと、理仁のほうに顔を向けて唯は口を開く。彼は、きょとんとしているようだった。少し目の奥が揺れている。
……唯の態度が真剣なのを、悟ったのだろう。
「あのね、理仁君。私のことばっかり優先しないでほしい」
先ほどからずっと思っていたことを、口に出す。
今日、理仁はずっと唯の意見を聞いてきた。それは多分、唯に楽しんでほしいという一心なのだろう。
それはわかるし、嬉しかったのも事実だ。かといって。
「私、理仁君とデートしてる……って、思ってるの。理仁君も楽しんでくれないと、私……嫌、だから」
最後のほうの声は自然と小さくなる。視線を彷徨わせてそう告げれば、理仁が唯の手をぎゅっと握ってくれたのがわかった。
「……あぁ、そうだな。唯は、そういう子だった」
「そういう子って……」
その言い方だと、まるで唯を子供のように思っているみたいじゃないか。
少し拗ねたように声を上げれば、理仁がハッとしたのがわかった。
「別に、妹みたいに見ているわけじゃない。……ただ、癖、というか」
しどろもどろになりつつも、理仁は弁解してくる。……そんなの、唯だってわかっている。ただ、からかっただけなのだ。
なのに、彼は本気だと受け取って、弁解している。性格が悪いかもしれないが、面白いと思ってしまった。
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