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「理仁君。私、怒っているわけじゃないの。……ただ、少しからかってみただけ」
今までだったら、こういうことが出来る空気じゃなかった。その所為か、自然とこんなことをしてしまったのだ。
「ごめんなさい。……理仁君こそ、怒った?」
彼の顔を覗き込んでそう問いかければ、彼はゆるゆると首を横に振った。
「いや、怒ってない。そもそも、さっきのは俺の失言だった。……俺にとって、唯は女性だ。とっくの、昔に」
真剣な面持ちでそう言われると、こっちが照れくさい。そっと目を伏せて、唯は心の中に湧きたつ嬉しさを押し留める。
そうじゃないと、口に出してしまいそうだ。態度に出してしまいそうだ。
……こういう人目がある場所では、いちゃつきたくない。だって、恥ずかしいから。
(そうよ。恥ずかしいの。……いちゃつくなら、二人きりがいい)
誰にも見られない場所で、二人きりならば……いちゃついてもいい。唯は、そう思っている。
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