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「まほろ通り?」  彼女は僕の言葉に、首を傾げた。  僕らは今、喫茶店にいる。対面に座りアイスコーヒーを啜っているのは幼馴染のカエデ。同じ高校に通う僕たちは、学校帰りに時たまこうして寄り道をしたりする。クラスメイトに見られたりしたらあらぬ誤解を招くかもしれないから嫌だといつも言っているのだが、彼女は「誤解されて困るの?」とまったくもって意に介さない。  結局、彼女に連れられて駅前の喫茶店でこうしてコーヒーを啜っているのだ。 「知らない? まほろ通り」 「うん。聞いたことないけど。ヒロキはどこで聞いたの?」 「聞いた、というか昔行ったことがあるような気がするんだ。いつのことだったかまでは詳しく覚えていないけど。この前、ふと思い出してね。なんか妙に気になるんだ」  まほろ通りのことを思い出して以来、なんだかずっと胸の奥がざわついている。あるべきところにあるものがない、みたいな。学校に着いてから忘れ物に気づいたときのような。その忘れ物がなんなのかは思い出せないのだけれど。 「それで、まほろ通り? だっけ? そこってどんな場所なの?」 「どんなって……」
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