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理解が追いついていない僕に母は、「まあ仕方ないか、あんなこともあったし」と独りごちると床に洗濯物を置いて畳み始めた。無言の圧力を感じて僕もシャツを一枚手に取る。
タオルに手をかけた母は思い出すように遠い目をしながら口を開いた。
「まだ小学生だった頃よ、あんたを子役にしようと思ってあちこちのドラマや映画のエキストラに参加させてたの」
本当に覚えてないの? と訊かれて僕はもう一度子供の頃を思い返す。確かに一時期母に連れられてどこかへ行くことが多かったという記憶はあるが、それがどこだったかは定かではない。母の話によれば、あれは撮影現場へ連れて行かれていたというわけか。
「じゃあ、エキストラであの映画に出演してるの? 僕が?」
「ちゃんと役者さんの後ろで町で遊ぶ子供を演じていたわよ。ほとんど映ってはなかったけどね」
「たしか──」と母は洗濯物を畳む手を止めると、立ち上がりテレビの前に置いたリモコンを操作してあるシーンで一時停止させた。「ほらここ。これよ」
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