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 聞き入れないだけならまだよかった。次第に彼女は自分の部屋に僕を招待するときのも“近道”を使うことを要求してきた。というか僕の部屋まで毎度毎度、迎えに来た。  そしておっかなびっくり屋根を歩く僕を「男なんだからもっとしっかりしろよ」と豪快に笑う。時には屋根の縁を歩いて度胸試しのようなことも彼女はしていた。  事故が起こったのはそんな時だった。足を滑らせたカエデが屋根から真っ逆さまに転落してしまったのだ。彼女を助けようと手を伸ばした僕も彼女と一緒に屋根の下へ落ちたのは言うまでもない。  次に気がついたときには病院だった。茂みに落ち、擦り傷と骨折で入院を余儀なくされた僕に対して、アスファルトの道路に落ちたカエデはなんとケガもなくピンピンしていた。  なんたる不条理。助けようとした僕の方が重症とは……。当時の僕の落ち込み具合といえば相当なものだった。けれどもそんな僕をカエデは毎日見舞ってくれた。そして「あのとき、助けようとしてくれてありがとう」と照れくさそうに言うのだ。その言葉だけで僕はカエデが無事で何よりだとほっこりするのだった。
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