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 何故か俺はえらく気に入られて、よく飯を奢ってもらったり、ゴルフに連れて行ってもらったりしてた。その度に「なんかお前雰囲気が他と違うな。度胸もあるし、期待大だ」って褒められてた。その時は「何がだよ」って思ったけど。それで話の中で「実は正社員の仕事を探してるんです〜」って言ったら、すぐに俺の会社で面倒見てやろうかって言われた。  これは後で知ったんだけど、おっちゃんは、俺の地元ではあそこくらいしかまともな就職先が無いってくらいの老舗お菓子メーカーの物流センターを任されていたんだ。俺は虫歯ができやすい体質だからって子供の頃から母さんに禁止されてずっと食ってないけど、ここに住んでるやつらにとっては生活の一部みたいになってた。あの会社があるから、観光資源が何にも無いこの地域が成り立ってるんだとも言われてたし。母さんは外から嫁に来たから、あんまり馴染みが無かったのかもしれないなって俺は思ってた。  それでその会社はいわゆる一族経営ってやつなんだけど、おっちゃんはそこの社長と仲が良くて一番でかい倉庫を任されてるんだって、煙草をふかしながら教えてくれた。  もちろん現場のライン作業だと思ってたら「もう少ししたら空きが出るからデスクワークもやってみたらいい」っておっちゃんに言われて。でも俺バカだから力仕事しか無理かもってぼやいたら「腰やったら働けなくなるし、今のうちに事務のスキルも磨いとけ。大丈夫だよ、お前と同じ年くらいの女の子でもやってるし」って言われた。それから「このままフラフラしてたら結婚できないぞ。子供だって早めに欲しいし、家だって建てたいだろ」とも。  同じくらいの年齢の女の子がやってるから大丈夫って理屈もよく分からないし、確かにちゃんと就職はしたかったけど結婚とか子供がどうのっていうのは、正直ピンとこなかった。デキ婚したのに秒で離婚して早速養育費に追われているツレもいるし、そもそも俺が子供の頃に俺の母さんと親父も離婚して、母さんは俺を一人で育ててくれたし。家についても、今のアパートが気に入ってるからあんまりこだわりが無い。  あと自分で言うのも何だが、俺は背も高いし、よく喋るからそこそこモテる。ツレに新しい彼女を紹介されたら、そのままその子に惚れられたことだってある。なんか他の奴らと違ってて「キュン」としちゃうんだって。何が違うのか今でもよく分からないけど。
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