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 俺はといえばおっちゃんに「タッパもあるし可愛げはある奴だから、とりあえずなんかやらしてやってくれ」とだけ言われて放り込まれたから本当に何でもやった。倉庫でお菓子をピッキングして、それをまとめてトラックに運び込んだりとか。あと笹原先輩が抱えてた仕事もやりますって俺から言ったんだ。  でも俺はパソコンが使えないから最初はひたすらに事務所の掃除とか、来客のお茶汲みをしていた。これについては笹原先輩は遠慮してたけど、後輩なんだから俺がやるべきだって主張したんだ。たまに来客のおっさんに「若くて可愛い女の子が淹れてくれたお茶が欲しい」って言われたことはあったよ。別に俺でもこれくらいできるし、わざわざ女だけにさせる必要も無いと思う。ただでさえ笹原先輩忙しいし。  それでたまにおっちゃんのカバン持ちって感じで本社に連れて行かれてた。本社は郊外にある物流センターから中心部に向かって少し車で走った場所に建てられてた。主要駅ではないけど、駅員さんが常駐してる駅が近くにあって、俺の地元と違ってコンビニも沢山もある。俺は生まれてから一回も地元を出たことがないから分からないけど、うちの地元からしたら立派な建物だった思う。お菓子の製造もここでやってて、でかいガラス越しに作業服着た人がずらりと並んで作業してる所も見せてもらったよ。  入社前に一回顔合わせはさせられたんだけど、五十代くらいの社長は代々会社を大きくして地元ごと支えてきただけあって、少し話しただけでもめちゃくちゃ頭が良いんだろうなあって分かる人だった。社長夫人も品が良くて「頑張ってね」って言って、よくジュースをケースで渡してくれた。  同じく本社で働いてる社長の息子、俺らは「若旦那」って呼んでるんだけど、若旦那も俺より年下にしか見えないのにめちゃくちゃ落ち着いてた。もう幹部がやるような仕事を任されてるんだけど、年上相手でも全くビビらない。俺は多分大学も出てるんだろうなって思ってた。
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