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 そして今、私のアパートには小さなお仏壇がある。仰々しくなくて私の日常に馴染んでいる感じの。そこには私の好きな人の骨が入っているのだ。でも山野くん自身はそこにはいないことを私は知っている。最初は幻覚かと思ったけれど、どうやら違うらしい。  深夜まで持ち帰り仕事をしていると背後から強い視線を感じたり、きつく閉めすぎて一旦諦めていたジュースの蓋を開けてくれたり、勝手に車の中を掃除していたりする。(これは恥ずかしいからやめて欲しい)でも一番やりそうなのに、お風呂の時に気配を感じないのは褒めてあげたい。  肝試しをする子を金縛りにして話を聞かせていたくらいだから、このくらいわけないのだろう。それなら出てきてくれればいいのに。もしかしたら昔、お化け怖いって言ったからかもしれない。でも山野くんなら怖くないし、もう昔みたいに怖がったりしないのに。  それでももし違ったら、山野くんじゃなかったらどうしようという気持ちもあった。だから私はずっと山野くんが自分から姿を現してくれるのを待っていたのだ。  でもふと気付いたのだ。もし私があのまま地元から逃げたままでいたら、山野くんの骨を見つけることは生涯できなかっただろう。やはりいつまでも待ってるだけじゃダメなんだ。だからいつもみたいに線香を供えて両手を合わせてから「私、山野くんが大好きだよ。だから全然怖くないから、山野くんに会いたいな」ってポツリと言ってみたのだ。そして「出てきたらとっても良いご褒美あげちゃうかも」とも。  その夜、私が目を瞑るといきなり金縛りにあった。怖くてブワッと鳥肌が立つ。もし山野くんではなかったらどうしようという思いに襲われる。しかし私は恐怖を押し殺して「山野くん!」と声をかけようとした。声が出なくてパクパクと口が動いただけだったけれど。  すると何かがそっと手に触れてきた。目をやると、私の布団の横に座る、不安そうなヤンキーの顔がそこにはあった。ああ、本当に昔と変わらない。 「山野くん」  声が出せたことにホッとしながら私は名前を呼んだ。しかし山野くんは唇をむぐむぐと動かしてから、そっぽを向いてしまう。 「……何で俺なんか探しに戻って来たの?笹原先輩が見つけちゃったから俺、地縛霊なっちゃったじゃん……笹原先輩に取り憑いちゃったんだよ!」 「うん」 「……怖がられると思って隠れてたんだ」
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