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いつも教室の隅で一人、本を読んでいる。
まるで世界に一人でいるような真弥にどこか憧れていた。
俺は群れてないと不安になる。
だからいつも笑ってる。
作り笑いが顔に張り付いて剥がれなくなってた。
でも真弥と話すようになって、俺の仮面は剥がれ落ちていった。
無理しないでいいって何て楽なんだろう。
俺は物心ついた頃にはもう男が好きで、それを隠すためにかなり努力した。
群れてないと不安になるのもそのせい。
真弥なら本当の自分を受け入れてくれるかもしれない。
でも言えなかった。
言えなかったのは少しずつ、真弥のことを好きになってたからだ。
同居してからその気持ちはドンドン膨らんでいった。
真弥の彼女と会ったとき、もう逃れられないと確信した。
だから逃げ出して行きつけのバーでマスターに恋のお悩み相談した。
その後、真弥が彼氏だと勘違いしたのはマスターだ。
ちなみにマスターには10年連れ添ってるパートナーがいる。
真弥にキスされた時、正直信じられなさすぎて現実逃避した。
酔ってたのもあって夢見心地で応じてたけど、ふと目があった瞬間に覚めた。
「拓未?」
「これ現実?」
「うん。」
「今酔い冷めた。恥ずかしくなってきた。」
「水飲む?」
「うん。」
ペットボトルを渡されたとき、触れた手にドキッとしたり。
あれ?なんでだ?
何か緊張してきた。
「ケーキだけ食べなきゃ。食べれる?」
「あ、あぁ、甘いものは別腹だし。」
「OK。」
「あのさ、」
「なに?」
「俺たちってその、この後どうなんの?」
「え?」
「付き合うとか、そういう」
「真弥はどうしたいの?」
「その聞き方はズルくない?」
「そっか...俺は、真弥と恋人になりたい。」
「あ、改めて言われると照れるな...」
「真弥は?」
そう聞かれて言葉がでず、ただ頷いた。
この時間がずっと続けばいいと思いながら、その反面、不安だった。
俺たちはまだ27で、これから色んな出会いがある。
そして拓未は元々男が好きな訳じゃない。
いつか親に聞かれるときがくる。
結婚は?子供は?
その時、彼はきっと迷うだろう。
人生の分岐点で本当に自分に必要なものを選択しなければならない。
そしてその時は意外に早くやってくる。
俺はその覚悟を決めるために仕事に打ち込んだ。
一人でも生きていける。
そんな自信をつけることでしか不安から逃れる方法がなかった。
そして、30になった俺たちはお互い、人生の分岐点に立つことになった。
俺は海外赴任を言い渡された。
いつ日本に帰れるかは分からない。
俺は自ら手放すことを決めた。
「拓未、話があるんだ。」
「なに?」
「今までありがとう。楽しかった。」
「え?どうした?突然」
「海外赴任が決まった。いつ日本に帰るか分からない。もう帰らないかもしれない。」
「なんで?」
「ここからはお互い別々の道だ。一緒には歩けない。」
「ちょっと待ってよ!」
「俺とお前は違う。俺たちは結局分かりあえない。」
俺はそう言って家を出た。
彼に何も言わせなかった。
聞きたくなかっただけだ。
彼からさよならを。
あれから5年。
俺は帰国して、一人暮らしを始めた。
あっちでボーイフレンドといえる相手もいたが長続きしなかった。
結局俺はずっと拓未のことを忘れられなかった。
もう会うこともないのに。
彼に似た人を見つける度、ドキッとした。
5年も経ってるんだ、シルエットも変わってるだろうし、もしかしたら太ってみる影もないかもしれない。
ハゲてるかも。
それかマッチョになってゴツくなってたりして。
そんなことを考えながら駅に向かってると前でおばあさんがスカーフを落とした。
慌てて拾おうとすると横から誰かが先に手を伸ばしてきた。
「真弥?」
顔を上げるとハゲても太ってもいない拓未だった。
「あ、これ落としましたよ。」
おばあさんにスカーフを渡す彼の後ろ姿を尻目に思わず逃げ出した。
もし薬指に指輪をしてたら。
そう考えてる時点で、俺はどこで期待していた。
5年間、俺の帰りを待ってたんじゃないか?
なんて淡い期待。
自分から別れを切り出しといて何て勝手で甘い考え。
そんなことは自分で良く分かってる。
電車に乗って、改札を出たら肩を叩かれた。
「また、逃げるのか?」
息を切らせながら彼はそう言った。
薬指に指輪はなかった。
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