177人が本棚に入れています
本棚に追加
辺りを見回してみても他の連中の息遣いは感じるものの、母さんと妹を助けようとしてくれない。
――その理由は知っている。
自分に降りかかるトラブルを避けたいんだ。
そしてオレが目にしているものは間違いようもなく、『トラブル』そのものだった。
オレは、ヘサームから分けてもらった大切な食べ物を持っていることも忘れて放り投げると母さんと妹の方へと駆け寄った。
「さあ、来るんだ!」
「やだっ、いやだ、おかあさんっ!!」
聞こえてくるのは野太い声をした中年男の声と抵抗する妹の悲鳴だ。
妹の大きな目からは涙があふれ、必死に助けを求めている。
「お願いです、私からこの子を取り上げないでやってください! 借金なら必ず何とかします。ですからどうか、どうかもう少し猶予をくださいっ!!」
最初のコメントを投稿しよう!