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別に狙っているわけじゃない。気取っているつもりも、誰かを見下しているつもりもない。ただ愛想とか愛嬌はないなと思っている。
それなのに女友達は「ビジュアルがいいと得だよね」とか「美波はなんでもできていいよね」とか言う。人の気も知らないで。
***
ある日の放課後、いつものように外履きを取り出そうとして、はぁ…とため息を吐いた。九割の人間がスマートフォンを持っているというのに、あたしの下駄箱には一ヶ月に一度は二つ折りにした紙が入っている。内容はいつだって同じ。
『○○で待ってます』
あたしはもう一度、同じ長さのため息を吐きながら、手紙の主が待っているという場所へ渋々向かった。その日は体育館の裏だ。
何が待っているのか想像はつく。そこから少し先のこともだいたい予想できる。だけど、いつも少しだけ期待してしまう。次こそは予想が外れるかも。今度は何かが違うかもって。
行ってみると、同じクラスの男子が立っていた。ノートを見せてもらったことがある。
「…やっぱり。阿部くんの字だと思った。どうしたの?」
「あの……」
夕日に照らされた阿部くんの声は震えている。顔が赤いかどうかは分からないけど黒い髪が茶色く見えた。
「蛙石さんが好きです!良かったら俺と付き合って下さい!」
「……いいよ」
あたしは少しだけ微笑んで、そう答える。それから相手が嬉しそうに笑う。似たようなやり取りをもう何度も繰り返している。
あたしはただ、美容院に行くのが面倒だから勝手に伸びていく髪を丁寧に手入れしているだけ。あたしはただ、他の子みたいにニコニコ笑って話すのが苦手なだけ。あたしはただ、親にブツブツ言われたくないから、それなりに勉強しているだけ。
なのに周りが勝手に担ぎ上げるんだ。″クールビューティー″だとか言って。
あたしは自分のことをクールだともビューティーだとも思っていないけど肯定も否定もしないでいたら、いつからか手紙が届くようになった。
女子高生だし恋愛に憧れはあるから、相手のことが嫌いじゃなければ、せっかくの好意だから受け入れたいって気持ちで返事をするんだけど。
その後思うの。この子はどうかなって――
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