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宿舎を出発して少し小高い丘を登ると、煉瓦造りの壁の一部が残っていた。ここは、教会が有った場所だ。教会は、どんな時も村の中心だった。お祭りも、結婚式も、お葬式も、村で問題が発生した時も、いつもここに村人が集まった。そして、一五年前にいきなり戦争が始まり軍隊がこの村に来た時も、みんなここに集められた。子供と年寄りはすぐに国境から離れた場所に移動させられたから、十六歳だった俺も一緒に移動させられた。近所に住んでいて、いろいろ面倒見てくれた二つ上のミハイルは、一八歳だから大人と同じようにここに残り、すぐに戦闘に巻き込まれ死んだ。俺は運が良かったのかもしれない。
教会を離れ、北側の森に向かって少し歩く。このあたりは昔は果樹園になっていた。俺の村は主に近隣に果物を売り生計をたてていた。だけど、長い戦争で果物の木は全部燃やされ、昔を知っている人じゃなければ、ここに果樹園があったことなんてわからないだろう。
昔食べたリンゴの味を思い出しながら引き返すと、今度は南へ進んだ。一五分くらい歩いた場所で立ち止まり、目を閉じた。たぶん、この辺りに俺の家があった。
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