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手足が重い。体が重い。みんなの表情が重い。何十、ひょっとしたら何百キロと歩いてきた。どこが目的地なのかも知らない。ただ、歩けと言われたから歩いていた。
「今日はここで泊まりだ」
崩れた屋根をビニールシートで補強した建物の中に荷物を置き、だだっ広いフロアに三列になり、みな自分の上着を枕にして寝た。最近は唯一私語を話してもいいこの時間だけど、誰も話すものはいない。十日以上歩き続けて、みんな疲れている。粗末な食事の時間に、隣国の将校からあと少しで目的地に着き、そこでしばらく瓦礫の撤去や復旧作業を行うことを知らされた。一五年続いた戦争のおかげで、この国はどこも荒れ果てていた。
それから数日歩いて、やっと目的地にたどり着いた。一昨日くらいから、やけに既視感があると思っていたら、そこは自分の故郷の村だった。隣国との国境沿いに有ったこの村は戦争が始まるなりすぐに激戦地となり、俺はすぐに東へと避難していた。村の様子を見渡してみたものの、見えるのは戦争の傷跡だけで、懐かしさを感じさせるものなんて、何もなかった。だけど、なぜか自分の国は負けたんだと思い知らされた。戦争は終わったけど、過去のあの長閑だった村は二度と戻ってこないことを実感した。
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