別れ付きの出逢い

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「美優さ、イケメンってそんなもんなの!」  莉緒は先に米粒のついた箸を私へビュッと立て、言い切った。  クラスで一番気が強く、美人な莉緒。その物言いは四捨五入のようにはっきり自分の定めた切り捨てを行う。私じゃなれない。でも憧れる性格。金髪のロングで異彩を放っているけど、性格も相まって逆にそれもありみたいな感じに思っている。  そんな莉緒は赤の中に、橙色が混ざっている、要は暖かくて優しい感情を熱量でカバーするタイプ。でも莉緒の中のその心を理解する人なんてほとんどいない。 「まあ、分かるよ。あの人イケメンだなーとか私も思うし。でも、やっぱり顔じゃ性格はわからないんだよ。イケメンで中身が良かったら、それこそ不平等でしょ? それくらいでいいんじゃないかな?」  瀬奈は礼儀正しく、箸を自前の箸立ての上に置いてから、話した。  茶髪のボブに、パッツンの前髪。ふわふわっとした可愛らしい顔。身長は低めでいつも莉緒の後ろをくっついている。  グループの中ではいつも平和進行役。今だって、私の意見を否定せずに、誰にも反感を食らわないような言い方を意識している。  瀬奈はいつでも主体は橙色。莉緒や私には桃色のかなりの好意を見せる時も多々ある。逆に初対面の人には寒色を向けて、分厚い壁を作っている。ようは日本犬みたいな性格。 「そんなこと言ってさ。翔の方はどうなのよ! イケメンで運動神経抜群で、頭の方はちょっとアレだけど、前を突っ走ってくれそうで面倒見良さそうなとことか。ほぼ悪いとこないじゃん。ちゃんとアタックしなさいよ! ねえ美優?」  莉緒は瀬奈のお弁当に入った砂糖たっぷりの卵焼きを横取りしながら、毎日のようにそれを口にする。  その言葉で、瀬奈の周囲は内側から桃色が覆い尽くしている。燃えるような桃色は羞恥の現れでもある。  そして、莉緒は私へ牽制するように同調を求める。 「う、うん」  私はいつもそう返すしかない。何か圧を感じて、縮こまってしまう。私は瀬奈という友達がいるから、翔と関わっているのがなんとなく申し訳なく感じていた。とは言っても何か特別なものが私たちの間にあるわけではないけど。  翔は私の幼馴染で、中学は違ったけど、高校で私がこっちへ越してきたからたまたま一緒になった。瀬奈と翔は中学からの仲で、私の方が付き合いは長い。でも私は単に長いだけ。濃密な時間を過ごしているのは瀬奈だと思う。翔は面倒見がいいから、抜けているところが多い私を気にかけてくれているけど、あってもそれくらいだ。莉緒が言っている通り、翔は結構できるタイプの人間で、瀬奈みたいな子と一緒にいれば相乗効果で、もっともっと良くなると思う。だからはなから狙っているつもりもないし、私なんてその土俵にすらあがれていない。 「美優はさ、うちの男子どうなのよ? やっぱり、田舎だとみんな芋臭い?」  莉緒が耳元で悪戯っぽく囁いてきた。  莉緒の口先から優しい悪意のない紫が飛び出している。 「そ、そんなことないよ」  変に焦った返しをしたが、本当になんとも思っていない。そんなの気にもならないし、お互いの良さがあると思っている――。    私は元々東京に住んでいて、全てが嫌になって、逃げるために祖母の家に住むことにした。父親は猛反対したが、祖母が面倒を見るならという条件で最終的には許してくれた。  都会と田舎では、正直同じ人とは思えないくらいに温かみがあった。今ではこっちに来て良かったと思っている。友人も出来て、毎日こうして、青春を送れている。2年前には想像もできなかった毎日。私はこんな平凡で美しい日々を守るために毎秒、毎分、毎時、毎日を一生懸命生きている。過剰でもなんでもなく、まさにそう。命に変えてもこの日々を守り抜く、そう誓っていた。
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