才能の価値

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 深くは聞いてこなかった。命は海まで行ける電車まで誘導してくれて、私はそれに従って、乗り継いだ。あまり話はしなかった。それでも、荒波に呑まれていた私の心は次第に、小さな湖くらいにまで落ち着いていった。  途中で駅弁を買って、それを空のお腹に流し込むように食べた。側から見たら駅弁を貪り食う一人旅行客。でも、お腹にものが入ると、それと同時に心の隙間も埋まっていく感触があった。  命と話したくなって、電話をするふりをして、喋り出した。それを察して、普通に話してくれた。どうでもいい時事ネタなり、彼氏ができたら行きたい場所。高校生らしい会話の内容もあれば、やることの尽きた爺婆のようなことまで。  一方的に話題をふり投げて、会話をする。命も興味ないことだらけだったろうし、私もどうでもいいことが多かった。それでも、話を聞いてくれたし、親身に答えてくれた。  外が夕焼けで暗くなるにつれ、海が近づいてきた。  自分で決めたルールすら守れなくて、それでも命は私を許してくれた。命も行きたかったから、許してくれたのかもしれない。それでもそんな都合の悪い解釈をする余裕はなかったし、したくもなかった。ただ私を想ってくれて、それで私と海に行ってくれた。今はその事実とその解釈だけで十分だった。
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