才能の価値

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 夜景と共に広がる無数の星。その反射によって海は発光しているように見えた。 「すっごい綺麗だね!」  砂浜の最前線には侵入禁止の看板。私は見てみぬふりをして、中にずかずかと入っていった。辺りには人の気配もなく、とても落ち着いた日本では珍しいビーチだった。命にも見えていたはずだけど、無言で私の犯罪の共犯になってくれた。  しばらく立ち尽くしてから、砂浜に尻をついた。とてもフカフカで、でも寒いそんな砂。 「俺が海を見に行きたいって言ったのは、海は生命の母なんだってさ。もうすぐ、俺は死ぬ。そう、死ぬんだ。そしたらここに戻るんだと。よくわからないじゃん? ここにきてわかったよ。やっぱりすごく不安で、死にきれない自分がいるんだって。何度も覚悟しては、死にたくないって。最近は落ち着いて、自分の中で示しがついたつもりだったのに、全然ダメだ。やっぱり死ぬのは怖いなって。それを確認したかったんだ」  命の中で確かめたかった事。私は定期テストで雪に一回負けた。別にそれだけじゃなくても、全ての問題が命の不安に敵うことはない。自分の小ささに呆れる。いつも自分自分。擁護して、保身第一で動く自分。やっぱり自分が嫌いで嫌いで仕方がない。 「テストの結果、よくなかったの?」  命は漣に負けるような小さな声で、そう聞いてきた。私は頑張った。首を横に振った。 「こんな海見てたらどうでもよくなるよな。俺が死ぬのだって、この海を前だと小さなことに思えるし、テストで一回ダメだったのも本当にしょうもないことじゃないか? あ、悪かったわけじゃないのか」  その後に命が見せた笑顔。それは色がないと相手の感情がわからない私にもなんとなく理解できる悲しい無理矢理な笑顔だった。  やっぱり多くは会話を交わさなかった。この幻想的な光景に見惚れていたかった。最近、息苦しすぎる世界を久しぶりに思い出していた。高校に入って少し忘れていた恐怖が、ぶり返すように頭に湧いてきて、それでもこれを見ていると忘れることができた。  小学校に入る前に見ていた海のような。夢と希望に満ちた世界。今じゃそこまで大層なものには感じないけど、それくらい海に力を感じた。実家から見える位置にあった海も綺麗だった。でも、今それを見てもこんな感情は生まれないんだろう。今ここで命と2人で見ていることが重要で、私をこんな気持ちにさせている。そんな気がした。
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