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とある世界のとある国、そこに広がる夜の黒い海には綺麗な星と欠けた月がぼんやりと映っている。有り触れた日常の中のこの幻想的な空間は綺麗な翼を持った鳥たちの絶好のフライングスポットだった。そして今日も「その鳥」は遥か上空を睨みながら、翼を打ち付け舞い上がった──。
「その鳥」の名は「イカロス」、彼の翼は片方しかない。
イカロスは鳥類しか存在しない世界「鳥園」に産まれた。親は綺麗で大きな羽と透き通るような碧い瞳を持っていてその姿は宝石と例えられた。そんな両親の子供は周りから当然のように絶世の美鳥に違いないと囁かれ、他の鳥以上に誕生を心待ちにされていた。
そして期待がこもった熱にて一羽の鳥が産まれた、、、がその姿に周りの見物人はとても驚いた、がその姿が他の鳥のヒナと変わらないものだったからではない。ヒナは左側の翼が抜け落ちていた。本来二つあるものが一つしかない異形なその容姿は周りを恐れさせ
、両親の整った姿と相まって周りの頭を悩ませた。
「ごめんなさい、みんなと同じように産んであげれなくて…」
激しい自責の念に駆られた両親はヒナに少しでもこれからするであろう様々な経験に挫けずに自信を持てるようにそのヒナに伝説の鳥「イカロス」と同じ名前をつけた。
イカロスは特異な姿で産まれたものの迫害されることもなく愛されながら過ごし、大人たちは「そういうものだ」と多少無理にでも受け入れる姿勢を見せ、イカロスを含む子供たちもまたともに過ごす中誰かが翼について言及することはほとんどなかった。しかしイカロスはそれが皆の悲しい優しさであることを分かっていた。「受け入れている」のではなく「なんとか受け入れようとしている」、「言及しない」ではなく「敢えて言及を避けている」、こうした優しさにイカロスは温かみを覚えそして同時に寂しさを毎日感じていた。しかし何よりイカロスにとって苦痛だったのは 空を自由に飛べないことだった。
小鳥も怪鳥も皆等しく翼を授かっており大空を自由に飛ぶ権利を持っている、地上よりも遥か無限に広がり、無限の厚みを持っているそこは鳥にとって誰も侵害することなく広範囲を占領できるような楽園に等しいものだった。
どの時間でもイカロスが上を見ると鳥たちが当たり前のように空を優雅に、あるいは忙しそうに飛んでいた。大空への憧れ、他の鳥への羨望、暗い夜になる度にイカロスは涙を流した。朝昼と違い誰にもその姿を見られることがないから、ただ星と月だけはその姿を慰めるようにキラリ輝いていた。
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