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「・・・今日も点灯確認よし...と」
片翼に産まれたイカロスは今灯台の点灯消灯を管理する仕事をしている。鳥の仕事と言えば基本的には空を飛び荷物を届ける宅配業や、同じ上空を飛びテリトリーを侵害する虫を駆除する清掃業、逆に虫を捕え調理し雛を含む周りに提供するサービス業辺りと相場が決まっている。しかし空を自由に飛べないイカロスはそれらの仕事に不向きで今は自主的に海に少数ある灯台に住み着き夜になると空を照らし、日が昇ると明かりを消す仕事を生活の一環として送っている。これは上手く飛べずに退屈にしている彼にもっと充実した生活を送ってもらいたいと思った父母が持ちかけた仕事だった。まだ成鳥にもなっていないイカロスへの規格外な提案に彼も驚いたが今はこの仕事に絶対的な誇りを持ち、周りからもその仕事ぶりを評価されている。なによりイカロスは高い灯台の屋上へ階段を使って登りそこから眺める輝く星の景色がとても気に入っていた。灯台の屋上から眺める星々は地上よりも綺麗で翼を上げれば触れることができてしまいそうなほど近くにあるようだった。そしてそこに一つほぼ毎日浮かんでいる大きな星。夜を駆けている大型の鳥も狙っているかのようにその星...月というらしい...の周りを飛び回っている。月はイカロスにとって神様のような神々しい存在となりいつしかその月まで飛び立つことが目標となっていた。
「今日は昨日よりも高く飛び立つ、1cmでも1mmでも...!!」
灯台の明かりを背にし憧れを見上げる。背中に光が辺りイカロスの姿は輝いて見える。
「えいっ......!」
右の翼を必死にはためかせ地面を蹴り身体は宙に浮いた。他の鳥たちもイカロスを上から見下ろす、毎日に及ぶ彼の月への挑戦は鳥たちにとって恒例行事となっていた。
「月まではまだ遠い、、、だけどまだ翼はどうもない」
スピードを上げて空気を散らして進んでいく。現在地上から30m、大きくなる月とは裏腹にその距離は月には到底届かないことをイカロスは知らない。
「うううぅぅぅ」
40m辺りでスピードが落ちてきた。翼の羽ばたくペースもかなりゆっくりになって行く。イカロスはこれ以上の飛行は望めないと落下の姿勢を取る。
「くそっ、いつか翼がなくても飛べることを、産まれ方を失敗しても目標に届くことを見せしめてやる...!」
急降下、海へと小さな隕石のように墜落していく。周りに大海があるお陰で落ちても最小限の痛みは来るが生きて帰ることが出来る。なによりイカロスが産まれ持った心の痛みに比べれば海への衝撃など何ともなかった。
「バンッ」
大きな飛沫を立ててイカロスが落ちる、最初はその行為を心配し止める者もいたが今やもう誰もが止めても意味が無いことをしり一部始終を静観している。
「...まただめだったんだなイカロス」
一匹の鳥が崖上で仲間と共に呟いた。
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