灯台の上のイカロス

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「はぁ、はぁ、ああ...」 ずぶ濡れになりながら岸へと上がる、落ちてる間に見える月の残像による黄色い線は見上げるといつもの丸に戻っていた。 「翼がまだ上手く動かない...明日また挑戦だな」 灯台の入口へと戻るためよろけながらもゆっくり歩く、彼の後ろには水でできた線が引かれていた。 「......」 無言でただ歩く。海から灯台までの間、毎日色々なことを考える。今回の反省、自分の境遇、誰かとの比較...考えても結局は惨めな気持ちになるだけだとは分かっているのの簡単に考えることを辞めることは出来なかった。 そうして丁度半分の距離に差し掛かった時イカロスはまた呼び止められた。 「いつまでその挑戦続けるつもりなんだよ、月まで全然距離届いてねーじゃん」 「また来た......いつかいけるんだって」 イカロスに話しかけた鳥は「ホルス」、赤茶色の毛を持っていて大きな翼を持っている。尊大というか、斜に構えた性格でいつもイカロスにこう挑戦を辞めるよう促してくるのだ。 「いつかいつかってそれはもう何百回と聞いてるんだっての」 「そのデカい翼を持っているなら月までひとっ飛びだろうね、羨ましいよ」 「ん?これ?」 ホルスは両翼を開いて見せた。夜なのに一際明るい翼を広げたその姿はまるで太陽に土星の環が付いているかのような見た目だ。 「いやいけねぇよ...あいつ近づいても近づいても着陸できないし」 「謙遜はいいっての...というかなんでいつもそう辞めるよう話しかけてくるの」 「危ないし達成の見込みが少ないだろなにより...」 ホルスはどこまでもイカロスを信頼していないようでイカロスは悲しんだ。 間違っているのは自分なのか、星も月も自分に愛の光はくれはしないのか。 「もういいよ...灯台の点検もしないとだし帰るね」 怒りや哀しみを抱きイカロスは帰る。その後ろ姿をホルスはしばらく見続けた。 「...なにより...」 ホルスの呟きは夜風に流れ、空の彼方に消えてしまった。 イカロスは灯台の屋上に戻りまた星月夜を眺めていた。 「やっぱりこの空は綺麗だ...」 星を目で追い星座にして月を囲ってみる、こうすることで月を鉤爪で掴んだような感じがして静かに心が洗われる感覚がするからイカロスはよくそういうことをしていた。 目を瞑り今日を振り返ってみる。 「それにしてもホルスはなんであんなに僕に突っかかってくるんだ...昔はもっと仲が良かったはずだ、僕の翼の醜さに失望したのかな...」 掛けた翼の部分を見つめてみる。親はとてもきれいな翼を持っていた。それは夜でも場違いなほど輝いており、自分も成長したら大きな翼が生えてくるんだと信じていた。でもそんなことは当然なく友達と空の旅を楽しむことも出来ず悔やみながらこれまで生きてきた。周りは皆優しくしてくれていた、自分もその温かみに甘えていた、それなのに今更人生を恨むのはダサいのはイカロスも分かっている。 「もしかしたらホルスは本当に僕が怪我をした後のことを心配しているのか...?」 ありえないと思いながらもそう考えたのは今日が初めてでは無い。 「...それはないな」 結局イカロスは自分の考えを自分で否定にゆっくりと瞼を閉じた。
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